「非常識な発想」が「新たな常識」を創り出す。
大倉工業株式会社
代表取締役社長執行役員 福田 英司
香川県出身。香川大学を卒業後、1993年に大倉工業に入社。経理部に配属され、通常の経理業務のほか、中期経営計画策定などを担当する。2004年、子会社となる株式会社九州オークラの立ち上げに関わり、その後同社の社長に就任する。以降、株式会社関西オークラ(現:株式会社KSオークラ)社長、コーポレートセンター経理部長などを歴任。2024年3月から取締役専務執行役員合成樹脂事業部長を務める。2025年1月、55歳で代表取締役社長執行役員に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
香川・丸亀から付加価値の高い技術を発信。
大倉工業の創業は1945年。1955年に現在の社名へと変更し、香川・丸亀の地でポリエチレンフィルム製造を開始したのが1956年。以来、丸亀に根ざして事業を発展させてきました。
当社には三つの主要事業があります。一つは「合成樹脂」事業、二つ目は「新規材料」事業、そして三つ目が「建材」事業です。
合成樹脂事業で製造するのは、ポリオレフィンというカテゴリーのプラスチックフィルムです。これは多彩な分野で使用されており、例えば食品分野では、食品用トレイやカップ麺などの包装用シュリンクフィルムとして役立っています。
工業分野では、自動車関連フィルム、耐熱・絶縁フィルムなどがあり、その他にも医療分野、農業分野、生活用品分野で製品を展開し、暮らしと産業を幅広く支えています。
新規材料事業では「世界に向けてキーパーツを発信」というビジョンを掲げ、長年のフィルム加工技術を基盤とする材料を製造しています。
具体的には、スマートフォンやパソコンなどに使われる光学フィルム、自動車部材や医療向けに使われるウレタンエラストマーフィルムなどです。また、環境にやさしい無溶剤型アクリル系接着剤の開発も行っています。
建材事業の主力は、木材の小片に接着剤を混合し、熱と圧力で成形したパーティクルボードです。当社のパーティクルボードは建築廃材を再利用して製造しており、資源リサイクルの推進に積極的に取り組んでいます。ここで事業の基盤を作りながら、各種の環境資材や住宅部材を提供しています。
新たな機能を発現させる、無数のレシピがある。
大倉工業がここまで順調に歩み続けてこられた理由。それは、「材料設計技術」と「加工技術」というコアコンピタンスがあるからです。
例えばフィルムに関して言うと、一つの製品を完成させたらゴールではありません。次は「もっと薄く」「もっと厚く」「光沢を持たせたい」「滑り性を良くしたい」「ガスバリア性を付与したい」など、際限なく要望が発生します。これら一つひとつを叶えるのに必要なのが、材料設計技術と加工技術です。
どの素材を、どれくらいの分量で、どの温度で、どのタイミングで調合するか。当社には無数のノウハウ、レシピが塊のように存在しています。レシピに不足があれば、変更してみる。ちょっとした変化で機能が大きく変わる、パズルのピースを組み立てるようなもので、一つひとつの工夫で徐々に全体像が見えてくるのです。とても奥の深い世界で、一朝一夕で真似できるものではありません。
また当社はEV向けの接着剤を製造していますが、これも同様です。接着剤という製品は、単一の物質で構成されているわけではありません。さまざまな素材を配合し、化学反応を起こすことで、「硬化スピードの早さ」という、他社の真似できない特徴を発現させているのです。
材料設計技術と加工技術がなければ、こうした「接着してすぐ次の工程に送れるため、生産性の向上に大いに貢献する」といった機能を生み出せなかったでしょう。
今後はすべての生活サポート群製品を環境貢献型に置き換えていく、という課題があります。カギを握るのは生分解性で、従来とはまったく異なる生物学的アプローチが必要です。おそらく、まったく新しいものを作り出すのと同等の高難度の開発になるでしょう。そういったことをこなせるだけの蓄積が、当社にはある。これが大きな強みになっています。
要素技術でお客様から選ばれる存在に。
大倉工業は2019年、経営ビジョン「Next10(2030)」を策定しました。「要素技術を通じて、新たな価値を創造し、お客様から選ばれるソリューションパートナー」を10年先の「ありたい姿」として定め、計画を推進。基礎固め、種まきの段階だったStage1、2を越え、現在はStage3にあります。
準備を進めてきたそれぞれのプロジェクトを軌道に乗せ、事業領域を拡大する段階を迎えたわけです。
主要3事業の中でも“尖った”部門と言える新規材料事業では、2025年~2027年の3年で売上高は2024年比30%UPを目標にしています。
新規材料事業部門で製造するのは、情報電子、医療、モビリティなど今後のさらなる伸びが予想される領域で使用される製品です。一つひとつの付加価値が高く、利益率も極めて良いのです。
例えば電子材料の分野では、大型液晶ディスプレイ用光学フィルムがあります。大型テレビは非常に伸びており、世界での主流は65インチクラスになっています。
また、会議用モニターとしての需要も旺盛です。他に屋外でデジタルサイネージとして使われるなど、見かける機会が増えているのを実感される人も多いのではないでしょうか。
建材事業では、すでに行っている10億円の投資に加え、今後3年で43億円(合計53億円)と、主要3事業で最も大きい投資を行う予定です。これは、森林資源の循環に貢献する事業体制を確立するためです。
国内には、植林から50年以上経過した針葉樹がたくさんあります。年数を重ねると二酸化炭素吸収率が下がるので、どんどん活用して森林の若返りを図る方が理にかなっているのです。
そこで私たちは総額53億円の投資を行い、地元四国産の杉やひのきを使った木質材を有効活用できる事業を構築したいと考えています。この事業により、年間18万トンの二酸化炭素を大気中に放出せず固定できる計算になります。この点でも、意義の大きいビジネスと言えます。
主要3事業の拡大に加え、第4の柱を作る。
Next10(2030)で掲げる2030年度の売上目標は1,200億円。現在の1.5倍にしよう、というチャレンジングなもので、既存の積み上げだけで実現するのは難しいと考えています。異色の発想やアイデア、また世の中を変えていきたいという意欲が欠かせません。
私としては、主要3事業の拡大だけでなく、第4の事業を作り出したい、と考えています。それは主要事業から派生するかもしれませんし、R&Dセンターが手がけるシーズから花開くかもしれません。
大まかに言えば、情報電子、環境・エネルギー、ライフ&ヘルスケア、モビリティといった分野から誕生させたいですね。その候補の一つに、ペロブスカイト太陽電池の材料開発があります。ペロブスカイト太陽電池は従来のシリコン系太陽電池に比べ薄く、軽く、低コスト生産が期待できるもので、フィルム加工技術を活かせる分野です。
またLCP(液晶ポリマー)フィルムにも取り組んでいます。LCPフィルムの特徴は伝送損失の少なさにあり、実用化ができれば、5G、6Gといった大容量データ伝送に耐え得る素材になると考えています。
モビリティ関連にも期待しています。今、車業界全体で「鉄から樹脂へ」という流れが起こっています。鉄は重く、さらにEVでは電池も搭載するので、樹脂材料で軽量化を図ろうとしています。今後、車の自動運転が社会全体で進めば衝突事故の危険性が低くなるといわれ、車体をそこまで頑丈にする理由もありません。
とはいえ、樹脂にある程度の厚さは必要ですし、表面がザラつくと外観が悪くなるので平滑性も求められます。滑らかな質感と厚みを両立させるには、技術のさらなる進化が求められます。
海外の売上比率も高めていきます。2030年に30%というのが目標ですが、今の業績トレンドからすると、達成の可能性は高いと見込んでいます。2023年にはベトナムに工場を設立。ここでは新規材料事業の接着剤を製造に向けて準備しています。
ベトナムの工場敷地は5haですが、接着剤製造に使用するのは2ha分。まだ余っていますので、国内工場で作っている合成樹脂事業のフィルム製品の一部もベトナムに移管するつもりです。そうして生産体制が整ったら、欧米などの世界市場への供給拠点にしていきたいと考えています。
何か一つ“尖った”部分を持ってほしい。
海外展開を推進するには、内部育成はもちろんですが、外部からのエキスパート人材獲得も検討しています。重視したいのは起業家精神ですね。
海外への進出当初は、少数の精鋭を派遣する形になるので、自分で判断して動き、一つの事業を立ち上げるという気概が必要です。そういった意欲を持った方にお任せしたいです。
他の分野でも、当社には多くの仲間が必要です。オールマイティーでなくとも一向に構いません。誰にでも苦手分野があるのは当然ですから。ただ何か一つ“尖った”部分を持っておいてほしいですね。
ここなら誰にも負けない、ここは自分の強みだ、と胸を張って言える。そういう人材の数が多いほど、またそれぞれの持つ強みが多彩であればあるほど、特徴的な事業が生まれる可能性は高まります。課題にぶつかった時も、いろんな視点から解決策を練ることができるはずです。
業界未経験の方でも、しっかりと仕事をこなしてきた人なら、「ここは今までの知識が応用できる」といったアイデアの横展開ができると思います。
自分の経験をベースとしつつ、新たな課題にチャレンジしたい。そういった姿勢を持つ人は大歓迎です。むしろ業界に染まっていない分、フィルムや建材に対して新たな見方ができるかもしれません。
大倉工業は、とても真面目な人間の集まった会社です。そこに異質な視点が加わると、既存の従業員にも良い刺激になるでしょう。それによって起こる“化学反応”を楽しみにしています。