公共交通ネットワークの四国モデルを地域と共に追求。
四国旅客鉄道株式会社
常務取締役(総合企画本部長) 四之宮 和幸
1989年、京都大学大学院(交通土木工学専攻)修了。同年4月より四国旅客鉄道(株)に入社。高架工事、橋梁・トンネル検査といった土木部門を担当する。2001年には関連企業の徳島ターミナルビル(株)に出向し、ホテル・駅ビル運営などを経験。2004年に復帰後は、管理職として様々な部門を歴任。2017年に取締役。2020年には現職である常務取締役総合企画本部長に就任。愛媛県西条市出身。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
インバウンドで気づいた、四国地域の価値。
全国に先駆けて人口減少の進む四国は、従来より課題先進地域とも言われてきました。人口減が進むと、経済活性化の動きは鈍くなり、企業の自立した安定的な経営が難しくなってしまいます。そのような「四国の将来は明るくないのか…」といった悲観的な見方を払拭してくれたのが、インバウンド効果です。
四国がインバウンドに舵を切った当初は、正直「四国に海外からお客様がやってきてくれるのだろうか?」と懐疑的な意見もありました。ところがふたを開けてみると、想像以上に多くの人々が四国を訪ねてくれるようになったのです。海外の方々は、いわゆる観光地ではない場所、例えば徳島のにし阿波の急傾斜地で営まれている農業体験などを好みます。そこでしか味わえない生活を楽しみ、そこで生活している人々と話がしたいと思うようです。
しかも四国は、ぐるっと一周できるのがいい。旅行では、行きの道中は楽しくとも、帰りは多少興味が落ちてしまうものです。しかし四国は一周できる上、4県それぞれで異なる風景や文化を持っているため、旅の間中、多彩な楽しみを追求できる。海外からの訪問客にとって大歩危(おおぼけ)などは秘境そのものですし、一方、現代アートの最先端を行く直島などもある。それらを一度に堪能できる四国は、インバウンドという観点で大きなポテンシャルを持っているのだと実感しました。
海外からの観光客によるインバウンド効果が高まると、その次には、国内の人々が四国の良さを改めて見直す、という「リバウンド」が起こってきます。四国に旅行し、いい所だと感じてくれる人も増えるでしょう。こういった交流人口の増加が、地域活性化にとって重要なのは、言うまでもありません。それがすぐ定住人口の拡大にはつながらなくとも、四国はいいところだと多くの人が認識してくれれば、現在だけでなく将来にわたって四国と関係を持ってくれる人口が増えていくはずです。
四国全域の活性化にコミットできる、数少ない1社として。
2021年3月、JR四国は「長期経営ビジョン2030/Good Challenge」を策定しました。この中で、以下の3つのミッションを掲げています。
1)地域とともに、「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求する
2)訪れたい・暮らしたいと感じる、にぎわいとおもてなしにあふれる四国をつくる
3)新しい価値・サービスの創造にチャレンジする
鉄道会社である以上、公共の移動手段というインフラを、安全に、信頼いただける形で提供する。これは今までも今後も変わりません。ただし、人口減の時代ですから、従来の延長線上でうまくいくほど甘くはありません。公共交通の変わらぬ安全性・正確性を維持するため、私たちはもっと進化しなければならない。生産性向上のための省力化・省人化といった努力を怠るわけにはいきません。そのためICTに代表されるテクノロジーのさらなる積極的活用が重要となるでしょう。もちろん、整備新幹線の誘致などによる交通網の充実にも注力していかなければなりません。
「鉄道」「非鉄」全部門で、新たなチャレンジに取り組む。
一方、私たちにできることは「鉄道」だけではありません。JR四国には20近くのグループ会社があり、ホテル経営、駅ビルの運営、不動産活用、飲食・物販など幅広い事業を手掛けています。地域の交通ネットワークを軸にこれらの事業を連携させることで、私たちは地域のまちづくりそのものに関わる力を持っているわけです。
現在はコロナ禍で交流人口が途絶えた状態ですが、やがて収束すれば、インバウンド需要が復活するでしょう。その際、来てもらった人々に、四国の魅力を十分堪能してもらう。何度でも来たいと思ってもらう。また四国で暮らす人には、ずっとここで暮らしたいと感じてもらう。そうしたまちを創るため、自治体や産業界とも力を合わせて取り組んでいきたい。四国全域を俯瞰する視点を持つJR四国だからこそできることですし、責務と言ってもいいでしょう。
さらに「鉄道」部門、「非鉄道」部門の総体で、新たなサービス創造にも取り組みます。一つの例が「四国版MaaS(Mobility as a Service=鉄道、バスを始めタクシー・レンタカー・シェアサイクルといったあらゆる公共交通をICTによって結び、人々が効率よく使えるようにするシステム)」の実現です。実は四国は、MaaSに馴染みやすい地域だと認識しています。各エリアにおけるバスや鉄道など公共交通の競合が少なく、むしろ補完を考えやすい状況にあるからです。まずは鉄道とバスが発着時間を互いに協調し合う。そこにタクシーやレンタカー、シェアサイクルにも入ってもらう。これらをICTでつないでいけば、かなり利便性の高い交通網が生まれるのではないでしょうか。
サブスクリプション方式を導入し、月額固定料で四国内の公共交通機関を乗り放題にする、といった発想もいいですね。ICTやサブスクなどの仕組みづくりに一日の長がある大都市圏のベンチャーなどの力も借りると、よりいいシステムになるのではないでしょうか。そのように、他地域の知恵を四国に取り込む先導役になるのも、JR四国が果たすべき役割の一つかもしれません。
既成概念にとらわれない知恵や意欲が不可欠。
非鉄部門では、それ以上に柔軟な発想による行動が求められます。例えば不動産事業なら、駅ビルやマンションを建てるだけではなく、プロパティマネジメントなども活用した不動産価値の最大化を図っていきたいと考えています。そこには、専門の知見を持つスペシャリストが不可欠です。
またホテル事業でいうと、インバウンド需要によって四国を訪問するお客様がますます増えます。それらの人々にご満足いただけるようなホテル運営ができる人材も必要です。さらにもう少し広い視野に立ち、国内外を問わず様々なお客様に四国を訪れてもらい、楽しんでいただく、といったスキームづくりから担える人材も求めていきたいところです。 他の分野でも、多彩なプロが必要になってきます。公共交通とのシナジーを考えた展開も大事ですが、むしろシナジーのない、事業ポートフォリオに載っていない領域にも、可能性があればチャレンジしていく。そんな動きをしていきたいと考えています。
中途人材のスペシャリティーに期待したい。
コロナ禍は交通事業を営む私たちに、厳しい現実をつきつけました。しかし見方を変えれば、先延ばしにしていた課題を直視させてくれた、とも言えます。10年先と思っていた課題に、今すぐ着手しなければならないという危機感をもたらしてくれました。そういう意味では、迎えるべきタイミングだったのかなと思います。この時代の状況を奇貨として、JR四国はGood Challengeをスタートさせます。