素材だけでなく、システムや一般消費財も提供。「独創力」で事業の幅を拡大。
四国化成工業株式会社
代表取締役社長 濱崎 誠
1958年生まれ。1980年、四国化成工業株式会社(現・四国化成ホールディングス)に入社。生産技術として各種製品を製造するためのプラント設計を担当。2002年、技術部長。以後、徳島工場 副工場長、丸亀工場長を歴任。2015年より執行役員。2018年より取締役執行役員。生産・技術本部長、化学品事業本部副本部長を経て、2023年、常務取締役。同年、ホールディングス体制移行とともに、事業会社の一つである四国化成工業株式会社の代表取締役社長に就任。ランニングを53歳の時に始め、57歳でフルマラソンデビュー。今も定期的にトレーニングをしている。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
生活・産業のさまざまな場所の最先端分野で活躍する素材を提供。
四国化成工業の創業は1947年。きっかけとなったのは化学繊維レーヨンやセロハンの製造工程で用いられる「二硫化炭素」の製造に成功したことです。1957年には洗剤や入浴剤として利用される「中性無水芒硝」の製造を開始しました。
いずれの製品においても、当社は後発でした。先行する競合が何十社もいるマーケットに後れて参入しながら世界トップクラスのシェアを獲得できたのは、生産技術によって独自の製法を生み出したからです。
1964年には、プールからサニタリー・衛生分野まで、さまざまな水環境を支える「塩素化イソシアヌル酸」の初の国産化を実現。二硫化炭素・芒硝・イソシアヌル酸という、創業期における3大発明に対し、生産技術の寄与した部分は大きかったと思います。
当社の製品は特定の市場に着目し、参入できる製品を構想して独自の生産技術により形にすることで生まれてきました。自動車や航空機などのタイヤ性能の向上に貢献する「不溶性硫黄」や、エポキシ樹脂硬化剤の「イミダゾール」なども同様のやり方で育ってきた製品です。
確かな生産技術がベースにあることで、研究開発にも力を入れる余裕が出てきました。
世界トップシェアを誇るプリント配線板表面処理薬剤「タフエース」をはじめとする最先端領域に貢献する高機能の製品が数多く誕生。近年、重要度を増しているGPUなど半導体機器製造においても、私たちの製品は不可欠な存在となっています。
2024年には、スマートフォンなど半導体機器の高機能化に貢献する新規樹脂硬化剤「TS-G」の開発で芦原科学大賞も受賞。続く2025年には同製品で文部科学大臣表彰も受け、全国発明表彰・日本弁理士会会長賞にも選出されています。
新ブランド「ウォッシュマニア」を立ち上げ、BtoC市場へ。
当社製品は従来、主に各種製品の機能アップや生産性向上に貢献するものでした。言わば川上型のBtoBビジネスを主軸としていたのですが、その一方、一般消費者に向けた川下型のBtoCビジネスを拡充したい思いもずっと抱いていました。
そこで立ち上げたのが、「ウォッシュマニア」ブランドです。その第1弾の商品として、家庭用洗濯機の洗濯槽クリーナーをリリースしました。
これは長年、塩素化イソシアヌル酸をベースにプール殺菌・消毒剤を開発してきた技術を家庭用洗剤に応用したもの。従来の酸素系クリーナーで取り切れない黒カビ汚れを分解・除去し、洗濯環境を良好に保ち続けます。
BtoC製品となると、開発・製造は言うまでもなく、営業や広宣活動もこれまでとはまったく異なります。完全な製品でないと一般消費者は安心して使ってくれないし、分かりにくいものは手に取ってくれない。そういった難しさがあります。
製品に問題があってクレームが寄せられた場合、受け止める体制が私たちにあるのか、という点もしっかり吟味したうえでのスタートでした。「ウォッシュマニア」ブランドは第2弾、第3弾商品開発も進んでおり、リリース目前のものもあります。
単体の素材のみではなく、システムも丸ごと提供。
プール殺菌・消毒剤の供給実績を基に、自動塩素管理システム「ナピックス」や、その簡易版である「S-Feed」を開発。お客さまにシステムを丸ごと導入していただくストックビジネスも始まっています。
「風呂管理製品」では、風呂水専用塩素剤「スパクリーン」と自動供給装置のS-Feedを組み合わせ、入浴施設の衛生維持を効率的に行えるシステムを提供しています。
2024年からは、「MICROFADE(マイクロフェード)」という事業が立ち上がりました。船舶は荷物を積まずに海を航行する際、安定性を保つ重しとして船内に海水を積みます。
これをバラスト水と呼びますが、バラスト水にはさまざまな海洋生物が含まれており、本来の生息地でない場所で放出すると生態系に悪影響を及ぼす可能性があります。
そこで当社が、バラスト水処理薬剤の「ネオクロール・マリーン」と、バラスト水処理装置「MICROFADEII」をセットで提供。安定した処理性能を発揮し、海洋環境の保全に貢献しています。
海外展開については、既に当社製品の6割以上が海外を主要マーケットとしており、この比率はますます高まっていくでしょう。
増産の続く不溶性硫黄の大半は海外需要によるものですし、半導体材料・プリント配線板表面処理薬剤なども大半は海外向けです。
塩素化イソシアヌル酸は、「ウォッシュマニア」をはじめとするサニタリー・衛生分野では国内市場でも十分に成長の余地がありますが、プール用でみると海外向けが圧倒的に多くなっています。
国内の需要も維持しつつ、海外向けを拡充することが事業成長には欠かせません。
「独創力」を基盤に、「一歩先を行く」提案を。
当社は独自の視点・アイデアと確かな技術で価値を生み出す「独創力」によって市場の信頼を得てきました。
お客さまから言われて初めて動くのではもう遅い、それに先んじて自ら動く。その姿勢を改めて明確化するため、当社グループの中期経営計画「Challenge 1000」で、「独創力で、“一歩先行く提案”型企業へ」というビジョンを策定しています。
薬剤はあるのだから、供給システムから丸ごと供給すればお客さまに喜んでいただけるのではないか。この薬剤は半導体分野にも応用できるのではないか。発想や視野を広げて、一歩先の提案につなげる。それらの中から既存事業の新たな展開や新規事業が生まれているのです。
当社の創業者もそういう方でした。エネルギッシュでバイタリティーに溢れ、さまざまな製品に取り組み、製法を発明して世に送り出していた本物の技術者でした。
そのDNAは、脈々と受け継がれています。当社は独創力によって歴史を築いてきた会社ですし、独創力は今後も、私たちが道を拓くうえでの重要な根幹であり続けるでしょう。
出る杭が打たれるようなことも、当社にはありません。私が新人の頃から、「あれはするな」「これはやめろ」と言われた経験もなく、やりたいようにやるのが技術者として当たり前だ、という雰囲気が当時からありました。
何度も失敗しましたが、徹底的に鍛えられて育ってきた自負はあります。少数ですが、まさに精鋭が揃っており、ホールディングス体制となり分社化したことで、やりたいようにやるという自由な風土に拍車がかかったように感じます。
議論が活性化され、今まで以上に新しいアイデアが自由闊達に生まれるようになってきました。事実、分社2年で新たな事業プロジェクトが山のように生まれ、既に実行段階に入っています。
いろんなことを実現し、充実した仕事人生が送れる。
私たちが進化していくには、まだまだ多くの仲間が必要です。
当社には他にない魅力的な仕事がたくさんあります。例えば、私が長く携わってきた生産技術にはエンジニアリングの面白さがすべて詰まっています。
自分で設計し、ゼロから作り上げたプラントが価値ある製品を次々に生み出していく。それはまさに「自分の作品」です。
自分が設計から手掛けた一個の作品が、動き、価値を発揮する。その達成感は大きいものがあります。また私は基本設計から詳細設計まで、何でも自分でやっていました。
大手企業では、設計、調達、施工管理など担当を分けることが多いと思います。でも当社の生産技術はそのすべてのプロセスに関われる。それが面白さにつながっています。
担当範囲が広いので、さまざまな知識が求められます。これは生産技術だけに限ったことではなく、開発でも営業でも同じです。それらはすべて自分の財産として蓄積されるのです。
ウォッシュマニアブランドで、一般消費者向けの製品開発が進んでいく。海外向け製品もさらに加速していく。今、当社ではいろんなことを実現できる土俵があります。
情熱や意欲、野心を持って、開発や製造、あるいは営業など、これまでの経験を活かしてぜひチャレンジしてください。