“モノよりコト”の提案で産業と医療を支えるエキスパート集団。
高松帝酸株式会社
専務取締役営業本部長 太田 貴也
1981年、高松市生まれ。高校卒業まで高松で暮らす。2004年、上智大学理工学部物理学科を卒業後、フランス資本の日本法人であるジャパン・エア・ガシズ株式会社(現在の日本エア・リキード合同会社)に入社。2008年、高松帝酸株式会社に入社。営業、技術、総務と様々な部門の仕事を経験する。2013年、取締役。2020年には専務取締役営業本部長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
ガスにとどまらず、生産設備・資材の提供までカバー。
高松帝酸は、産業用・医療用の高圧ガスを製造販売する会社です。スマホやテレビ、情報家電などあらゆる製品に半導体が組み込まれていますが、これを作る工程では、ヘリウム、水素、窒素、アルゴンなど30種類以上のガスを使います。
また、車や船といった機械や建設資材を作るには、切断用・溶接用ガスが必要です。医療分野では、人工呼吸器用の酸素が欠かせませんし、手術・治療用に窒素・炭酸が欠かせません。ガスは「ものづくり」と「医療」を支える、重要な基盤なのです。
そして我々の強みは、ガスを扱うだけにとどまらない点です。あらゆるメーカーの製品づくりに貢献するため、ガス供給設備の設計や施工、生産関連設備や産業機械・ロボット、製造資材の提案・供給・メンテナンスまで提案しています。ガスに加え、生産設備の仕入販売も行う「商社」機能も併せ持つことで、ワンストップソリューションを提供しているのです。
また、医療分野においては、ガスの院内配管設備の設計・施工・保守や、医療機器・資材のレンタル・販売、介護福祉関連商材の販売まで幅広くカバーしています。
20年ほど前から、在宅医療関連機器の取り扱いも始めました。酸素療法が在宅でもできるようになり、必要な機器と酸素ガスに対するニーズが拡大しています。多くの声に応える形で取り扱いを始め、四国エリアでは、全国の市場を寡占する業界大手にも負けないシェアをもっています。
モノを売るだけでなく、困った時に頼ってもらえる。そういった「モノよりコト」の提案を、産業・医療の両分野でも展開。今や当社売上の半分以上を「商社」部門が担うほどになりました。
ワンストップソリューションの提案で、顧客の信頼を獲得。
高松帝酸の設立は1950年、曽祖父の代です。当初から、産業用・医療用ガスに取り組んだのですが、代理店を経由した販売が中心となり、ボンベにガスを充填し卸売をすることが主な仕事でした。
私の父が社長になった頃から、業態を拡大させようと、当時の半導体ブームに着目。半導体工場に向けた機器や消耗品の販売をスタートさせました。これが今につながる商社機能の最初です。同じ頃、病院に向けたガス配管工事にも着手。そうやって取引先は拡大していきました。
しかし、ここまで順風満帆だったわけではありません。2000年頃、電子部品の製造工程が海外に移管されたことで、当社は売り先を一時的に失いました。医療分野では、それまでの仕入先であった医療関連メーカーが競合会社に買収され、仕入先を変更すると、そこもライバル会社に買収される、といった苦い思いもしています。
ですが、私たちは新たな市場・取引先を開拓することで、逆境を跳ね返してきました。工場がある以上、生産設備や資材、ガスは必ず必要です。人がいる以上は、医療と医療用ガスは必ず必要になります。「モノよりコト」の発想で、お客さまの役に立つ提案を心がけました。
日本に十台もない貴重な製造機械の修理をお願いするため、九州や東北まで足を運んだこともあります。「修理に2ヶ月かかる」と言われたところを何度も頭を下げ、数日で対応してもらいました。利益だけを考えれば、そこまではやれません。しかし、地域に影響力を持つお客さまの工場が稼働しないと、その協力企業の工場も止まります。結果として、地域経済に大きな打撃を与えかねません。覚悟を持って交渉に臨むのは当然です。
昨年、当社で初めて、数億円もする医療機器を販売しました。担当した営業は、在宅酸素療法から病院との取引を始めたのですが、院長先生に大変気に入ってもらい、設備導入を検討している際に相談をお受けしたことがきっかけでした。「モノよりコト」のワンストップソリューションに、社員みんなで取り組んでいるおかげです。
新たな事業の芽も順調です。フッ素分野は特に有望で、フッ素ガスを使った表面改質(表面に特殊な処理を施して新たな機能を付与する技術)の領域は、全国から多くの要望をいただいており、急成長を遂げている事業となっています。
その流れを受けて3億円の設備投資を行い、今年「フッ素ガステクノロジーセンター」が完成し、稼働を始めました。フッ素事業が本格化するのはもう少し先ですが、研究は継続しており、他にも面白い素材の発掘に努めています。その他にも、溶接用ロボットを中心とする産業用ロボットや、FAシステムの提供という分野も、さらに大きくなっていくでしょう。
必要な人材がいればどこにでも会いに行き、誠意を尽くして迎える。
振り返って思うのは「高松帝酸は人を基軸に成長してきた会社だ」ということです。
2009年、当社は2020年をゴールとした中期経営計画「ビジョン2020」を策定しました。ここで従来の「高圧ガス製造販売を軸に」というビジョンを、「高圧ガス製造販売と医療事業を軸に」と変更し、医療事業が会社のコアビジネスであることを明言したのです。それにより、予算も人も投入できるようになりました。
初代の医療事業の部長は、大手製薬会社で在宅医療に取り組んでいた人です。当時、まだ10人にも満たなかった当社の医療部門に入社してもらうことで、大手の知識や手法を導入できました。現在の医療事業部長も、前職は別分野の大手企業で活躍していましたが、業界の違う弊社に入社してもらって、今の医療事業の成長を支えてくれています。
ロボット事業で中心メンバーとして活躍するエンジニアも、国内有数の大手産業機器メーカーで働いていた人で、事業部の成長を牽引してもらっています。私は、いい人がいたらどこにでも会いに行くし、なぜその人が必要なのか、その人を仲間に加えるとどんな未来が描けるのか、ウソもハッタリもなく真摯に伝えます。会社の運命が変わるほどの人をお迎えするのですから、そこに経営者が全力を尽くすのは当たり前です。
「人が育たない」「組織の動きが鈍い」というのは、経営者の責任。
結局、経営者の最大の役目は採用だと思うのです。一緒に戦ってくれる人か、当社のこれからに欠かせない人か、見極める。そうだと感じたら、礼を尽くし熱意を持って迎える。その役目を経営者が果たせていれば、現場は回ります。
高松帝酸に入る前は、逆の経験もしました。優秀な人材が上司ともめ、辞めてしまう。お世話になった先輩が、理不尽な理由で退職に追い込まれる。5年間働いた人が辞めたら、その人の5年分の知識と経験を失うことになります。それだけではなく、納得いかない理由で仲間を失った組織は、エンゲージメントが極めて低下します。
そうならないためには、経営者が人材を見極めないといけないわけです。社員が定年まで働くとすると、人件費は3~4億円…そんな投資をするのに、安易に決められるはずがありません。
「人が育たない」とか「組織の動きが鈍い」という問題の原因の8割は、採用にあります。すなわち、経営者の責任です。経営者が人材の選択と配置を間違わなければ、組織は自律的にハードルを超えていくものです。
社員みんなで作り上げた中期経営計画「V2030」。
V2020に続き、今はV2030がスタートしています。V2030にあたっては、経営陣ではなく、社員で話し合って策定してもらう手法を取りました。およそ60人の社員に参加してもらい、6人で1チームを作って、11の項目について討議し、結論を出すのです。
私が社員に伝えたのは、「幸せな未来を目標に定めてほしい」「仲間の意見を誹謗せず、多様性を尊重する」「グループの合意形成を大事に」ということだけ。各論には口を出さず、社員の自主性に任せました。V2030で示した柱は以下の3つです。
1)「将来の付加価値創造」。AIやIoT領域への参入、これらとFAの連携、あるいはバイオ・エネルギーといった次世代技術への取り組みで、付加価値のあるビジネスを行う。
2)「社内環境の最適化」。社員それぞれの個性・属性・ライフスタイルなど、あらゆる意味での多様性を尊重し、業務効率化を進めることで、社員とその家族の幸福度向上を目指す。
3)「地域社会とのかかわり」。地域との共生・共創を意識し、SDGsの強化や地域貢献活動に取り組む。
10年先を描きつつ、足元を見据えた計画が出来上がった。しかも、それが社員の主体性で策定されたことを、私は嬉しく思います。このような会社に未来を感じる方と、ぜひお会いしたいですね。