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ケアシューズのイメージを刷新し、世界中の高齢者の人生を輝かせる。

徳武産業株式会社
代表取締役社長 德武 聖子

更新日:2026年4月01日

1972年、香川県生まれ。徳島文理大学短期大学部を卒業後、香川銀行を経て、1997年にケアシューズ「あゆみシューズ」を製造する家業の徳武産業へ入社。同社は「左右サイズ違い・片方販売」など利用者に寄り添うサービスでケアシューズ業界トップシェアを誇る。2019年に代表取締役社長に就任。「お客様の声なき声に耳を傾ける」という理念を継承しつつ、人づくりを軸とした組織改革を推進。私生活では6人の子どもを持つ母親でもあり、温かな思いやりの心と革新を融合させた経営で会社を牽引している。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

お客さまに寄り添い続ける「あゆみ」の軌跡。

介護保険制度がスタートする5年前の1995年に「あゆみシューズ」は誕生しました。昨年、30周年という大きな節目を迎えましたが、振り返れば本当に多くの方々に支えられ、育てていただいた歳月だったと感じています。

私たちが今日まで歴史を重ねてこられたのは、開発当時の「世にないものを作りたい」という熱い想いと、何よりお客さま一人ひとりに徹底的に寄り添う姿勢を貫いてきたからにほかなりません。

一方で、これまでのあゆみシューズの軌跡を「30周年史」として編纂する中で私が痛感しているのは、現状に甘んじていては選ばれ続けることはできないという危機感です。

30年前の高齢者と現代の高齢者では、育ってきた環境、生活習慣、そして価値観が異なります。その変化を敏感に捉え、私たち自身も常にアップデートし続けなければなりません。

そこで私が掲げているのが「脱介護」というキーワードです。私たちが作っているのは確かにケアシューズですが、あえて介護という枠を飛び出すマインドチェンジが必要だと考えています。

これまでの30年を誇りにしつつも、それはあくまで通過点。次の30年に向けた新たなアイデンティティを再確認し、高齢者の生活をより豊かにする新しいステージへと踏み出す決意を持たねばなりません。

声なき声を形にする、ニッチトップ企業の執念。

徳武産業の歴史は、実は手袋の製造から始まっています。そこから旅行用スリッパの開発、そして現在のケアシューズへと、常に時代のニーズの半歩先を読みながら変化してきました。

私たちのものづくりの根底にあるのは、「中小企業であっても、何かで日本一になりたい」という執念です。そのためには、大企業が手を出さないニッチな領域を徹底的に掘り下げ、使う方が本当に満足できるものを追求し続ける道を歩んできました。

その象徴が、今では当たり前となった「左右サイズ違いの販売」や「片方のみの販売」です。

開発当時、高齢者施設を回る中で、足のむくみや変形で左右のサイズが異なり、仕方なく2足買って片方を捨てたり、無理に大きな靴を履いて転倒したりしている方々の姿を目の当たりにしました。

一方、靴業界では左右ペア販売が常識で、片方だけ売ることは経済合理性が成立しないとされていました。しかし、私たちは2年間で延べ500人ものモニター調査を繰り返し、その業界のタブーを打ち破ることを決めたのです。

さらに、一人ひとりに寄り添うその想いは「パーツオーダー」というサービスにもつながっています。足の変形や装具の着用など、お客さまの抱えるお悩みは千差万別です。

そこで、既成の靴をベースに、ベルトの長さを延長したり、靴底の高さを調整したりと、細かなカスタマイズに応える仕組みを作りました。

一つひとつ手作業で加工するため、大変な手間とコストがかかりますが、たった一人のお客さまであっても、その方が求める「歩く喜び」を叶えるためには、私たちにとって決して妥協できない選択でした。

靴の知識が乏しい素人集団だったからこそ、怖いもの知らずで飛び込めたのかもしれません。

開発者である現副会長がよく口にする「声なき声を形にする」という言葉通り、お客さま自身さえ気づいていない不便さや悩みに光を当て、商品へと落とし込む。このプロセスこそが徳武産業の揺るぎない原点です。

「脱介護」という新たな戦略。

今、私たちが真っ向から取り組んでいるのが、先ほども触れた「脱介護」へのブランド再構築です。一見、自分たちの市場を否定するように聞こえるかもしれませんが、これはお客さまの心に寄り添った結果の必然的な選択です。

現場で80代の方とお話ししていると、「私はまだあゆみシューズを履くような年齢じゃないわ」「介護用なんて、お年寄りみたいで嫌」という声を耳にすることがあります。

現代の高齢者は、実際の年齢よりも20歳ほど意識が若いと言われています。それにも関わらず、「シルバー」「ケア」「介護」といった名の付く商品を提案されることに、抵抗や寂しさを感じていらっしゃるのです。

機能が優れているのは大前提として、履くだけで心が弾むようなデザインや自分のライフスタイルを肯定してくれるシューズが今、求められています。

だからこそ、私たちはイメージの刷新に力を入れています。ロゴやカタログのビジュアルを洗練させ、介護用品という印象からの転換をはかっています。

地域に根付いた織物などの伝統工芸やアート作品とのコラボレーションなど、これまでのあゆみシューズの枠に囚われないスタイリッシュなラインナップの拡充もその一環です。

足が不自由になってからケアを考えるのではなく、早くから当社の商品に出会っていただき、自分の足で歩く喜びをいつまでも持ち続けてほしい。

お客さまのもつ心理的バイアスを払拭する挑戦が、結果としてアクティブな高齢者層への市場拡大にもつながると考えています。

3万通の「声」から紡ぎ出す、安心安全のための品質基準。

私たちの会社には、年間で約3万通ものアンケートはがきやお手紙が届きます。これらは私たちにとって最も貴重な経営資源です。

また、徳武産業ではクレームがあった際は原則として新品に交換する対応を続けています。一見、不合理なサービスに見えるかもしれませんが、そこには大きな理由があります。

返品いただいた靴を分析すると、使用環境におけるさまざまな特徴が見えてきます。例えば、冬場にストーブの前に足を近づけすぎて靴底が縮んでしまったというケースがあります。

このように身体的な感覚や判断力の低下が原因で、思いもよらない状況で靴を使用されている実態が見えてきます。これらは、一般的な靴の品質基準では測れない、高齢者特有の使用環境です。

この膨大なデータの蓄積から、私たちは独自の「あゆみ基準」を確立しようとしています。

世の中に高齢者向けの靴が増える一方で、安全基準が曖昧なままの商品が流通している現状に業界のトップランナーとして重い責任を感じています。

高齢者の特性を理解し、どんなアクシデントが起こり得るかを予見したうえでのものづくり。私たちのノウハウを基準として発信することで、市場全体の信頼性を高め、高齢者がより安全に、安心して生活できる環境をつくり上げていくことが私たちの社会的使命だと考えています。

伝統織物で挑むメイドインジャパンの海外展開。

徳武産業が本社を置く香川県は、手袋製造で培われた高度な縫製技術を誇る地域です。数ミリ単位のパーツを縫い合わせる緻密な手袋の技術は、私たちのルームシューズやケアシューズにも脈々と息づいています。

日本各地にはその地に根付いた伝統的な技術がありますが、その多くは後継者不足や生産拠点の海外移転という時代の流れの中で存続の危機にあります。

そんな背景を踏まえた挑戦の一つとして、日本の伝統織物を活用した新たなブランドの立ち上げにも挑戦しています。

きっかけは能登半島地震でした。被災地の産業を活性化させたいという想いから、能登上布などの伝統的な織物を靴の素材として採用し、日本の優れた技術を国内外へ発信しようとしています。

日本の織物文化は素晴らしいものがありますが、現代の生活では使われる機会が減っています。それを「靴」の形に変え、お届けする。市場は国内だけではなく、インバウンドのお客さまや、これから高齢化が加速するアジア各国へも届けていきます。

特に中国では60歳以上の人口が3億人いると言われており、今後日本が経験してきた課題がそのまま現れる巨大な市場です。単にモノを売るのではなく、日本で培った顧客に寄り添うマインドと共に、提案型製造のノウハウを武器に打って出ます。

メイドインジャパンの誇りを持ち、国内産業の魂を未来へとつないでいくことが、私たちの新たな「あゆみ」となると信じています。

ほんの1mmの改善が、未来の組織を強くする。

私は徳武産業の社長であると同時に、6人の子どもを育てる母親でもあります。

かつては仕事と育児の板挟みになり、孤独や葛藤に苦しんだ日々もありました。しかし、その経験こそが今の私の経営の軸になっています。

子どもが熱を出して会社を休むときの心苦しさと、それを乗り越える強さ。限られた時間の中で仕事を完遂しようとする集中力。これらはすべて仕事に活かせる立派なキャリアです。

私は社員に「仕事と家庭を天秤にかけるのではなく、すべてを自分という人間の器を大きくするための経験だと思おう」と伝えています。

女性が多い職場だからこそ、心理的安全性を高め、お互いが「おかげさま」で支え合える環境を整えることに注力してきました。

私たちが求めるのは、お客さまの困りごとに心から寄り添い、「なんとか力になりたい」と動ける利他的なマインドを持つ方です。

最初から大きな何かを成し遂げる必要はありません。大切なのは、今の自分や組織の限界から、ほんの「1mm外側」へ可能性を広げ続けること。

その小さな改善の積み重ねが、やがて世界を変える大きな力になると信じています。

全社員がお客さまの「歩けるようになった!」という喜びを自分のこととして分かち合い、足元から人生を幸せにする。そんな温かな組織として、少しずつ未来へ歩んでいきます。

編集後記

コンサルタント
德永 文平

德武社長のお話を伺い、何より心に残ったのは「あゆみシューズ」の開発や組織改革の根底に脈々と流れている「常識を打破していく情熱」でした。

業界ではタブー視されていた販売方法を実現させたのは、単なるビジネスの戦略ではなく、お一人おひとりの「声なき声」を拾い上げようとする純粋な優しさだったのだと感じます。

それは、効率や常識よりも「目の前の方が笑顔になれるかどうか」を大切にする、徳武産業の揺るぎないスタンスそのものです。

「脱介護」の挑戦も「いつまでも自分らしく、おしゃれを楽しんでほしい」という願いの現れだと思います。

機能性を追求するだけでなく、履く人の自尊心や高揚感まで見据えたブランドの再構築は、超高齢社会における新しい豊かさの形を提示しているように感じました。

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