香川から全国展開。M&A推進で売上1,000億円を実現する「尖った」企業へ。
株式会社ヤマウチ
代表取締役 岡本 将
高校卒業後、アメリカの大学に進学。大学院まで進み、組織論やリーダー論を学ぶ。帰国後は父の経営する株式会社オカモトに入社。2011年、31歳の若さで同社が買収した株式会社ヤマウチに赴き、代表取締役に就任。2012年にはオカモトグループの株式会社ウェルネスフロンティアの代表取締役社長を兼務(ウェルネスフロンティアは2023年にヤマウチと合併)。2013年、株式会社オカモトホールディングスの取締役副社長に就任。香川発の全国展開企業を創造するため、顧客目線の多角的な戦略を展開。M&Aによる事業のコングロマリット化を推進している。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
エネルギーからウェルネス、ヘルステックへ事業の多角化を加速。
株式会社ヤマウチの創業は1932年にさかのぼります。1963年にガソリンスタンドを開設し、1998年に現在の社名に変わってからは、車検・整備工場「ラチェットモンキー」や24時間営業のセルフスタンド「ヤマウチセルフ」、レストラン「びっくりドンキー」、カーメンテナンス事業、スポーツクラブ「JOYFIT」など、フランチャイズ加盟も活用しながら事業の多角化を進めてきました。
2011年、株式会社ヤマウチは後継者不足という課題を背景に、北海道に本社を構え、全国でガソリンスタンドやフィットネスクラブを展開していたオカモトグループの一員となりました。
オカモトの経営者である父の意向を受け、私がヤマウチの経営を任されて31歳で代表取締役に就任。それ以降、エネルギーインフラやスポーツクラブの多拠点展開に加え、積極的にM&Aも推進してきました。
大きな転機となったのは、2023年にオカモトグループの一社である株式会社ウェルネスフロンティアを吸収合併したことです。同社は東日本を中心にフィットネスジム「JOYFIT」と、フィットネスを介護に応用したリハビリ型デイサービス「ジョイリハ」を展開していました。
コロナ禍による組織再編を契機に、ヤマウチは従業員数約2,000名、拠点数415店舗、売上424億円という規模に一気に成長しました。その後もM&Aを通じて介護や葬祭事業に参入し、フィットネスから介護まで、ウェルネス全般を手がける企業として全国に拠点を持つ地方発のコングロマリットへと進化しています。
2024年には、香川のバスケットボールプロチーム「香川ファイブアローズ」への資本参画も決めました。背景にあったのは「香川に恩返しをしたい、人々が誇りの持てる地域にしたい」という想いです。「香川への恩返し」この言葉こそが、今、私の経営の原動力になっています。
香川に恩返しをするために。香川から全国に「ハッピー」を発信する。
私が社長に就任した2011年からヤマウチには東京オフィスがあり、私は主に東京で勤務していました。2023年に吸収した株式会社ウェルネスフロンティアの社長を兼務していたため、東京にいた方が業務上の利便性が高かったのです。
しかし、コロナ禍によりウェルネスフロンティアは大きな打撃を受けました。集客そのものが難しい状況に陥って業績は低迷し、いくつもの店舗を閉鎖せざるを得ませんでした。会社の未来が見えなくなるほどの衝撃でした。
そんな中、比較的堅調な業績を維持していたのがヤマウチです。ヤマウチの支えがあったからこそ、私たちはあの危機をなんとか乗り越えられたのです。
2023年にヤマウチがウェルネスフロンティアを吸収合併し、私は東京オフィスを離れて香川にデスクを移しました。今振り返ってみると、それは私にとって良い経験になりました。経営者としての思い上がりを突きつけられ、自信を失った私を支えてくれたのが香川でした。
もう一度やり直せると思えたのです。今度は私が香川に根を下ろし、香川へ恩返しをする。元気な会社は都市圏にだけ存在するわけではありません。地元に根差し、地域創生に貢献しながら、全国へ希望を届けていく。そんな会社をつくっていきたいと決意しました。
プロスポーツ経営への参画を通して、地域との一体感、地域への誇りを生み出す。
私は高校卒業後、アメリカの大学へ進学し、大学院では組織論やリーダーシップ論を学びました。大学時代は野球に打ち込み、メジャーリーグに進んだチームメイトもいます。私が住んでいたワシントン州のスポケーンという町は、人口14~15万人ほどの中堅都市で、香川県高松市とほぼ同規模でした。
その街では、当たり前のようにプロスポーツチームが存在し、地域の人々は皆、そのチームを応援していました。選手の多くはアルバイトをしながらプレーしていても、住民たちはその姿勢に敬意を払い、心から応援する文化が根づいていたのです。
「プロになれなくても、地域のために全力でプレーする」そういった姿勢が尊重される社会。それが、私の原点となりました。その想いを実現する形として、2024年にプロバスケットボールチーム「香川ファイブアローズ」の運営企業の第三者割当増資を引き受けました。
地元チームが頑張ることで、地域には一体感が生まれます。人々は「この地域に住んでいて良かった」と誇りを持つようになります。地域に立脚する企業は人々のそういった心情を思いやり、具体的に貢献する義務があると思うのです。
かつてアメリカで見た風景が、香川でも形になりつつあることは嬉しいことです。
事業発展と地域創生のためのM&A戦略。
プロスポーツ経営への参画は、地域の創生を示すわかりやすい事例の一つです。しかし、私たちの事業の根幹は、常に地域に密着し、その街で暮らす人々の一部となって「ハッピー」を提供し続けることにあります。
今後、私たちの組織はさらなる拡大フェーズへと進んでいきます。その成長を支えるのがM&Aです。私たちは、M&Aを推進する上で明確なフィロソフィー(判断基準)を持っています。それは、買収先の文化がヤマウチに合っているかどうかです。
オーナーや経営者が明確な理念を持ち、現場の従業員を大切にしている企業であれば、どのような事業であってもヤマウチと融合できる可能性が高まります。
反対に、トップダウン型の経営者には慎重になる必要があります。そのため、経営者だけでなく店長など現場の責任者とも積極的に言葉を交わし、自律性のある現場かどうかを見極めるようにしています。
たとえば2022年、県内業界の第一人者である有限会社瀬戸内スイミングスクールを買収できたのは、経営者とお互いの理念に共感できたからです。ある介護施設の買収案件では、競合相手がファンドであり、提示された買収額もファンド側の方が高かったにもかかわらず、オーナーはヤマウチを選んでくれました。
理由は「ファンドへ売却すれば数年後、再び売りに出されるだろう。しかし、ヤマウチは香川が地元で、介護にも本気で取り組んでくれている。従業員の待遇や福利厚生もヤマウチの方が上だ。残された従業員が安心して働ける企業に委ねたい」というものでした。
私自身がオカモトからヤマウチに来て経営者のキャリアをスタートさせた人間なので、買収する側もされる側の気持ちもよくわかります。理念のある経営者ほど、「従業員は大丈夫か」と心配するものです。私はその懸念に対して、全力で向き合い、答えていくことを大切にしています。
事業を買って価値をつけてイグジットしよう、といったドライな考え方ではなく、注目しているのは、社内のリソースとどうシナジーを起こして事業を育てていくかです。M&Aの先には、私たちが長く大切にしている地域創生への貢献があります。
DXとライフステージ戦略「ヤマウチID構想」。
人々の生活すべてに関わる企業として、多角的な事業展開を進めてきたヤマウチにとって、DXへの投資は欠かせないものです。私たちは「ヤマウチID構想」として、顧客一人ひとりのライフステージに合わせて最適なサービスを提供するため、顧客情報の一元管理を軸としたDXプラットフォームの構築を進めています。
子どもの頃にはスイミングスクール、学生時代には学習塾、大人になったらフィットネス、高齢期には介護、そして人生の最期には葬祭サービス。移動は自動車で、そのガソリンはヤマウチで給油する――。
このように生活のあらゆる場面で私たちが寄り添えたら、それはもう単なる会社ではなく、人生の一部といえる存在です。その実現のためにもDXやAIをバリュー創出の技術として活用し、ヤマウチID一つであらゆる価値を提供できる世界をつくりたいと考えています。
大きな変化を起こしたい、という人にポストを任せたい。
ヤマウチは100周年を迎える2033年までに、売上1,000億円・経常利益100億円の達成を目標としています。現在の売上規模がおよそ500億円なので倍以上の成長を目指しています。
その達成には、人材の力が不可欠です。まずは、内部人材の育成として待遇面の改善に注力しており、ボーナスも利益を最大限に還元しています。都市圏に劣らない給与水準を目指し、制度改革にも取り組んでおり、最終的には業界トップレベルの待遇を実現したいと考えています。
同時に、事業スピードをさらに加速させるには、高いスキルを持ったキャリア人材の獲得も重要です。現在、M&Aによってヤマウチの仲間となる企業が次々と加わっており、その分ポストも増えています。特に、後継者不在の企業が多いため、子会社の社長や経営層といった役職が次々に生まれています。
企業や事業を譲渡してくださるオーナーの多くは、「これまで育ててきた企業・事業に、大きな変化を起こしてほしい」という期待を持って私たちに経営権を委ねてくれます。大切な資産を引き受けた者として、私たちはオーナーとその顧客、そして従業員の期待に応えていく責任があるのです。
その責任を自覚し、器のある人材には、どんどん権限を委譲していきたいと考えています。チャンスを待つのではなく、自らつかみ、変化を起こしていく。そんなキーパーソンが大勢いてこそ、ヤマウチは「尖った」企業であり続けられるのです。
変化スピードの速い環境下で、日々考えながら行動する。混沌の中で素早い意思決定が求められるからこそ、失敗もあるでしょう。それでも、やり抜く経験を重ねることで多少のことでは揺るがない胆力が養われ、成功体験は増えていきます。
「自らが事業推進の原動力になっている」そんな手応えを、ここでつかんでください。