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門型油圧リフターなどの独自製品で「LE世界No.1」の一翼を担う。

株式会社タダノエンジニアリング
代表取締役社長 森 和誉

更新日:2025年5月21日

1966年生まれ。大学を卒業後、株式会社タダノに入社。主にクレーンの構造系・動力系における開発設計を担当する。2020年、株式会社タダノエンジニアリングに出向。約2年、タダノの開発した小型クレーンや高所作業車をトラックに架装する設計に携わり、その後門型油圧リフターの開発業務に携わる。2025年1月、代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

クレーンの苦手分野で活躍する「門型油圧リフター」。

工事現場で重量物を持ち上げるのに使われるクレーンの弱点は、上部に十分なスペースがないとブーム(クレーンの腕の部分)を上げられない、という点です。工場などの建物内、地下、トンネル、高架・橋梁下といった場所では上部空間に制限があるため、クレーンを使えない場合があります。こういった場所で活躍するのが当社の「門型油圧リフター」です。

門型油圧リフターとは、油圧シリンダーによって上下する2本の柱のようなジャッキ機構と、その間に渡した梁のようなブームで構成され、ブームの中央部に重量物を油圧技術でせり上げます。

建物内だと天井クレーンを使う場合もありますが、十分な高さのある工場でないと使えませんし、工場建設の後から天井クレーンを設置するのは困難です。しかしリフターは分解するとコンパクトになるので、工場の出入口から搬入して内部で組み立てられますし、遠方への搬入も可能です。

工場で稼働する工作機械の新規導入や入れ替えの際、重量のある工作機械の搬入・搬出は容易ではありません。そこで門型油圧リフターを工場内に持ってくれば、運搬作業がかなり楽になります。屋外の現場でも上空に電線があるためクレーンが使えないケースがありますが、当社のリフターなら使用に何の問題もありません。

また、リフターは「せり上げ装置」なので、操作に資格が不要なのも導入しやすさにつながっています。せり上げ能力3.6トン~60トン(特注で300トン)までと多彩なタイプを取り揃えており、個別の案件に応じた一品物のカスタムモデル開発も行っています。

タダノグループの蓄積を活かしたオリジナルブランド。

タダノエンジニアリングが生まれたのは1988年。親会社は建設用クレーンや車両積載型クレーン、高所作業車などの開発メーカーであるタダノです。もともとタダノ内部で行っていた、製品マニュアルやパーツリストなどを作る事業部門が分離独立する形で設立されました。

当社にはタダノから出向してきたエンジニアもいたので、1989年から小型クレーンや高所作業車の架装設計を行うようになりました。そうするうちに「独自の製品を持ちたい」という声が上がり始めたのです。そして1995年、タダノエンジニアリングのオリジナルブランドである門型油圧リフターの初号機を開発したのです。

2000年には、重量物をデッキに乗せてせり上げることに特化した「デッキリフト」という製品も誕生。200トン以上の重量物のせり上げが可能で、橋梁の架け替え工事で橋を持ち上げたり、高速道路の高架工事の際に多軸運搬車と組み合わせて高架部分を運搬したりといった場面に用いられています。

タダノがクレーンなどの製品を生み出す過程で培った、重量物を持ち上げる油圧や制御に関する技術・経験をクレーンと違ったプロダクトに応用する。そして、クレーンでは解決が難しいお客さまの困りごとを視点の異なる技術で解決する。

タダノエンジニアリングは、そんなコンセプトで製品の開発にあたってきました。私たちもまた、タダノグループの「抗重力・空間作業機械=Lifting Equipment(LE)で世界No.1になる」という目標を実現する一翼を担い、世界一にふさわしいLEを提供していきます。

国内シェア9割。今後は海外展開を見据える。

門型油圧リフターについては、国内では競合がほぼいません。時折、海外メーカー製を見かけますが、それもごく僅か。当社製品で9割程度のシェア(2024年時点:自社調べ)を占めています。

潜在マーケットを対象として国内市場を伸ばす余地はありますが、さらに大きく飛躍しようと思えば海外市場に目を向ける必要があります。とはいえ、過去にタイと台湾に進出したものの実績らしい実績はほぼないに等しい状態です。

最初はタダノが既に市場を切り拓いている地域が中心となるでしょう。北米であれば石油精製所などでよく使用されているようです。天井クレーンが使えない場所で稼働できるという長所は日本と同様で、リフターが求められる現場は多いと手応えを得ています。徐々に実績を積み、独自に市場を開拓していきたいと考えています。

もう一つ、積極的に取り組みたいのが、「LEでお客さまの課題、社会課題を解決する」ことです。それも、私たちでなければ解決できない難易度の高い課題にチャレンジしたいと考えています。困難に立ち向かうからこそ面白いし、それを克服することで競合優位性が生まれ、チャンスが広がるでしょう。

特にインフラ系工事では、地下に埋設した水道管の老朽化対策など取り組みがいのある課題が多いと見ています。しかし、都市圏だと混み入りすぎて大型車が入れなかったり、クレーンが使いづらかったりする場合も多い。そんな時の別の選択肢としてリフターを提供できれば存在価値が高まるでしょう。

開発力・生産力のさらなる強化が不可欠。

海外展開や社会課題への対応を実践するためには、開発力・生産力のさらなる向上が不可欠です。門型油圧リフターで言うと、私たちはせり上げ能力の異なる5種を揃えています。しかし、お客さまによって使い方が大きく異なるため、量産機であっても「こういったオプションをつけてほしい」「こんな機能は搭載できないか」という要望が寄せられ、まして特別仕様となると一品物の世界で開発に時間を要してしまうのです。

こうした要望にきめ細かく対応できるのが当社の強みですが、お客さまを待たせてしまうのは好ましい状況ではありません。効率を上げる努力は続けていますが、現有の人員のままでは限界があります。多彩な声に柔軟に対処するためにも、より高度な要求を叶えるためにも、エンジニアの数がもっと必要です。

同じせり上げ能力であれば、輸送が容易なより小型のリフターが役に立つのは言うまでもありません。「せり上げ能力はそのままで、機体をもっと小型に」というニーズも出てくるかもしれません。これにチャレンジするのも面白そうです。

デッキリフトについて言えば、運搬車と一緒に用いられることも多いのですが、今はタダノエンジニアリングで運搬車の製造にまでは手が回っていません。しかし、いずれ運搬車も作りたいという意欲はあります。デッキリフトと多軸運搬車が共に自社製であれば、もっと多彩な運用ができるようになるでしょう。

また製品を作る時期は集中しがちで、時期的な波が生まれてしまいます。この波を平準化できれば、余裕を持って製品づくりに取り組めるようになるでしょう。これらの様々な問題を克服するためにもエンジニアを増やしていきます。

コンテンツ事業ではグループ外のニーズを取り込む。

当社にとって祖業にあたる取扱説明書、カタログ制作、多言語翻訳、プロモーション企画などのコンテンツ事業についても、もっと発展させたいと考えています。

製品の取説はWebが主流になっているので、クレーンのマニュアルもWeb化を進めないといけません。Webなら文字で理解しにくい内容を動画で見せることも可能で、分かりにくいクレーン操作の手順が理解しやすくなります。近年、タダノグループの新たな仲間となる会社が増えています。しかし、取説は以前のまま更新されていないケースも珍しくありません。考え方・表記・体裁をタダノグループで統一していった方が、お客さまにとって見やすいものになるはずです。

またコンテンツ事業では、タダノグループの各社が展示会に出る時もブースづくりなどを行っています。この企画制作力をグループ外の会社にも応用できないかと考えています。社外のニーズを取り込みたいというのは、マニュアル制作に関しても同じです。もちろん、外の会社は業態が違うし、勝手も異なるので最初は苦労も多いでしょう。スケジュール管理もいっそう厳密にやる必要があります。

企画制作を行うため社内にはディレクターやデザイナーがいます。全て内製ではなく、外部の協力会社の力も借りながらコンテンツを作成しています。しかし事業をもっと発展させるには、クリエイティブな人材をもっと増やさないといけません。特にグループ外の仕事にチャレンジする場合、タダノ以外の業界についての知見を持つ人材が欠かせません。

難しい課題ほど燃える。そんな人材を大歓迎。

タダノエンジニアリングの売上は現在約20億円。2026年度に50億、2029年度には200億円まで伸ばす、という目標を掲げています。かなり強気の目標ですが、目標はそれくらいの方がいいと思います。

5年先で50億円くらいなら、普通に何とかなると思ってしまう。でも来年に50億円となると、本気で向き合わないと決して実現できません。そこに真剣さが生まれます。課題は困難な方が燃える。それは技術開発に限った話ではありません。

私は従業員に向けた年初の挨拶で、「新奇歓迎」という言葉を使いました。変わったことを歓迎する。そんな社風にしていきたいのです。変わり者を歓迎するくらいでないと、5年後に200億円なんて到達できません。

前任社長の時代から、やりたいことを遠慮なく言えるボトムアップ型にしようと組織改革に取り組んできました。おかげで従業員からの提案が増えるなど、土台はできてきたと感じます。ここに当社がさらに発展するための原動力となってくれる人材に加わってほしいのです。

新しい人材には、私のような古い世代の凝り固まった見方をふっ飛ばすような発想・提案をしてもらいたいです。高い壁に直面するとワクワクする、チャレンジすることが楽しい、という人がやりがいを味わえる。そんな会社を一緒に創ってくれる方との出会いを期待しています。

編集後記

チーフコンサルタント
溝渕 愛子

タダノ社で動力系の開発部門を牽引されていた森様が、門型油圧リフターという全く異なる製品を生み出すタダノエンジニアリング社の社長に就任されたとお聞きし、今後の事業展開について伺える日をとても楽しみにしておりました。

お話を伺って改めて、タダノグループが「LE世界No.1」を目指すために、タダノエンジニアリング社の製品が絶対に欠かせないものであること、またマニュアルの領域ではタダノ製品を扱う世界中のクレーンオペレーターを支え続けてきた存在であることを確信しました。

また、「変わったこと歓迎!」「難しい課題ほど燃えます」と楽しそうにお話される社長の姿からは、根っからのエンジニア魂と熱量、そしてボトムアップの社風が強く伝わってきました。大きな目標を掲げ、海外展開など事業拡大を目指す同社の今後の飛躍が楽しみでなりません。

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