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「人との出会い」を原動力に、高付加価値のうどんを国内外へ発信。

石丸製麺株式会社
代表取締役社長 石丸 芳樹

更新日:2024年4月10日

香川県高松市出身。一橋大学卒。伊藤忠商事株式会社を経て、石丸製麺株式会社に入社。製造・営業現場を幅広く経験し、2002年に常務取締役、そして2004年に代表取締役社長に就任。同社4代目の社長として創業以来のモノづくりの姿勢を引き継ぎつつ、「さぬきの夢」「年明けうどん」「茶うどん」「全粒粉うどん」等々、新たな「讃岐うどん」文化の創出に向けて積極的に取り組んでいる。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

良い原料、国産小麦へのこだわり。

石丸製麺の創業は1904年。以来、120年にわたり、郷土の誇る讃岐うどんを作り続けてきました。もともと製粉事業からスタートし、それを原料として乾麺づくりに着手。戦後、国策によって製粉から手を離して以降は、製麺づくりに特化する専業メーカーとして歩んできました。

当社には、良い原料・良い小麦に対する執着と呼んでいいほどの想いがあります。おいしいうどんは、良い原料から生まれる。良い原料を選ぶ審美眼を鍛えないといけない。当社の姿勢は製粉という祖業に由来するものでしょう。

当社で小麦を貯蔵しているサイロは外から見ると4本ですが、内部は合計で12本のタンクに分かれています。複数のタンクから原料を投入し、多様な原料のミックスを行っています。と言うのも、1種類の小麦だけだと練り加減が日によって変わり、味にバラつきが出てしまうためです。

「ミックスすることで味のバラつきを抑え、質を維持する」という妙技があるのです。当社が12本のタンクを備えたのは1992年。まだ売上が10億円に満たない頃からこれだけの投資をしてきたのは、原料へのこだわりがあったからにほかなりません。

経済効率で言うと、大量調達によるコスト低減が期待できるため、原料は1種類にした方がいいのです。しかし私たちはコスト高になっても原料をブレンドし、付加価値の高い麺を追求する、という道を選びました。

多くの原料を調達することで、様々な製粉メーカーと積極的に対話する姿勢が生まれました。人との出会いを大切にする。それが当社のスタンスとなっていったのです。

手打ち麺の圧倒的なおいしさを、工場で実現。

1984年には、国内で初めて「手打ち式製法」による乾麺の商品化に成功しました。かつて讃岐うどんは職人が経験と勘を駆使し、手打ちで作るものでした。手打ち麺は振り幅が大きく、うまくいけば強烈においしい麺ができます。

しかし、多くのメーカーは手打ちの振り幅を嫌ってロール切り刃を導入していきました。ロール切り刃で作ると、均質な麺ができますが、想像を超えるようなおいしい麺は生まれません。どこも似たような味なので、低価格競争に陥ってしまいがちです。

私たちは、別の道を歩みました。振り幅のマイナス部分は抑えつつ、「手打ちだからこそ」のおいしさを工場で実現できないか。当社の技術者は血のにじむ努力を重ね、ついに手打ち式製法を確立させたのです。手打ち式製法による乾麺は次元の違う味を実現しました。

現在、当社は3工場を抱え、二つの工場で手打ち式製法による高付加価値の麺を製造しており、さらに2026年には新工場の稼働を計画しています。

1991年から2000年にかけ、うどん王国・讃岐にふさわしい小麦を開発しようと、香川県農業試験場の主導によるプロジェクトが立ち上がりました。この「さぬきの夢」プロジェクトに当社が乾麺メーカー代表として参加できたのはとても幸運なことだったと思います。

「さぬきの夢」は、茹でると真価を発揮します。上質なデンプンが多く含まれるため、とてもおいしくなるのです。その一方、デンプンの多さが製麺メーカー泣かせで、ちょっとしたことで折れてしまいます。ですが私たちは諦めず、「さぬきの夢」を扱えるよう、工場も新しくしました。

手打ち式製法と「さぬきの夢」の出会いは当社にとって大きなターニングポイントだったと思います。

「融業」で、うどんの可能性は無限に広がる。

当社には、事業の中核に据える三つの柱があります。その一つは「国産小麦へのこだわり」。二つ目が「融業(ゆうぎょう)」、そして三つ目が「海外」です。

「融業」とは当社の造語であり、二つ以上の異業種がお互いの強みを寄せ合いながら、新たなビジネスを生み出すことを指します。私たちはずっと、うどんの原料にこだわり、おいしいうどんにこだわる専業メーカーであり続けてきました。極めてきただけに、うどんについては誰にも負けない、という自負があります。

一方、専業メーカーなので、他分野はわかりません。だからこそ、人との出会いを大切にしてきました。新しい出会いによってもたらされる情報や知恵が、石丸製麺を進化させる力になるからです。うどんをさらに進化させるため、様々な人々と融業を進めてきました。

2014年にかがわ県産品コンクールにて最優秀賞を受賞した「茶うどん」は、融業の成果の一つと言えるでしょう。お茶を扱う人々にも、こだわりがあります。私たちにも同じくらい強い想いがあります。専業メーカー同士が互いの製品をもっと高めようと「融業」したことで、新しい価値が生み出されました。

2015年には、国産原料によるうどんづくりのことを多くの人に知ってもらおうと讃岐うどんミュージアムを設立。これにより一般消費者はもちろん、異業界の人々が数多くミュージアムを訪れるようになりました。

訪れる人が増えると、出会いの輪が広がります。「さぬきの夢」プロジェクトがTVのドキュメンタリーで紹介されたことも相まって、たくさんの人が当社にやって来ました。そうすると、対話が始まるのです。

全国には、多種多彩な農産物の生産者がいます。しかし質の高い産品であっても、規格外であったり、市場認知度が低いなどの理由で廃棄されるものも少なくありません。

うどんは、これらの産品を包み込むことができます。包みこんで、うどんと産品、双方の価値を高めることができます。農産品の6次産業化を進めることができるわけです。こうした異業種との融業を進められるのも専業メーカーとしてこだわりをやってきたからだ、と実感します。

食品ロス削減、食の安全性など、社会課題とも向き合う。

融業は、うどんの可能性を無限に広げてくれます。お茶の分野だけでも、八女茶、知覧茶など、産地によって風合いの変わる数々の産品があります。それら全てとの連携が可能になるわけです。他の分野へと目を向けると、ごぼうやレンコン、昆布などもある。どれも地域で愛された味です。これらとうどんが結びつけば、さらに新たな価値が生まれます。

もちろん、簡単ではありません。例えば、「レモンうどん」という製品があります。これは酸が入っているので、最初は麺がボロボロになってしまいました。しかし、そこで諦めずに原料や製法に一工夫を加えることで、何とか克服できました。うどんとそぐわないと思われていた素材がうどんとの融合を果たし、可能性を広げています。

全粒粉うどんの製造・販売もスタートさせています。通常は小麦の胚乳だけを使用しますが、全粒粉は表皮や胚芽など、捨てられてしまう分も全て粉にします。表皮や胚芽には食物繊維、マグネシウム・鉄・亜鉛・ビタミンといった栄養素が豊富に含まれているのです。

全粒粉を麺にするのが難しく、ずっと敬遠されてきました。そこで当社は長年の手打ち式製法で培った技術を生かし、栄養豊富で食品ロスの少ない全粒粉うどんを成功させたわけです。

今日「食品ロス削減」は、食品メーカーが取り組むべき大きな課題となっています。また「食の安全性」についても、人々の関心が高まっています。これらの社会的課題としっかり向き合っていかなければなりません。それが社会の公器たる私たちの責任です。

石丸製麺が多方面に手を広げるメーカーなら、とてもそうしたことまで目が届かなかったかもしれません。しかし私たちは専業メーカーです。食品ロスや食の安全性に対しても、機敏に動ける柔軟性、フットワークの良さがあります。異業種との融業は、社会的課題に対する私たちなりの解決策にもなっているのです。

当社には20数名の営業スタッフがいます。当社の規模でこの数の営業は突出して多い方でしょう。これだけ配置しているのは、いろんな業界の方々と対話を進めるためです。今後も人々との出会いを大切に、専業メーカーとして歩み続けます。

16ヶ国に輸出。海外売上は年々伸長。

当社が事業の柱の三つ目として重視するのが、海外販売です。海外においては国内以上に厳しいレギュレーションで考えなければなりません。現場判断の細やかな対応は期待できませんので、製造・品質管理に関する仕組み・マニュアルを完璧に揃えておく必要があります。

そういった難しさはあるものの、今後、海外での売上比率が伸びていくのは間違いないでしょう。現在は16ヶ国に輸出しており、供給する国の数も量も年々増えています。インバウンドにより、讃岐うどんというブランドも広く知られるようになったのも大きいと思います。

今は海外からの要請に万全に応えられるよう、供給サイドとしての体制を整えている段階です。外資販売拠点への供給も始まっていますし、インドとの商談もスタートしています。

2018年2月には食品安全のためのシステム規格であるFSSC22000を取得。世界でもトップクラスの厳しさの認証を取得したことで、特に品質管理に厳しい先進国市場においても自信をもって製品の流通を推進できる体制が整いました。

ものづくりへのこだわりを持った人と出会いたい。

当社で活躍できる人材として第一に必要なのは、やはりものづくりに対する関心でしょう。原料へのこだわり、手打ち式製法への挑戦、異業界とのコラボによる新たな価値の創造など、石丸製麺のどの局面においても、原動力となったのは「よりよい麺がつくりたい」という思いでした。たとえ営業職だとしても、ものづくりに対する思いを持つ人がいいのではないかと感じます。

ものづくりは、簡単ではありません。原料研究も一筋縄ではいきませんし、新たな産品との融合を考えるとなると、課題は次々にやってきます。ビジネスである以上、コストに見合う製品であるか、という視点も大事です。

いいものはいいと柔軟に採り入れ、忍耐強く最善を追求する姿勢が大事です。そういう姿勢でものづくりを続けていけば、必ずお客様の評価はついてきます。製麺技術を極め、お客様に喜びと感動を与える製品を提供する。その姿勢を忘れずにいれば、当社は社会から必要とされ続けるでしょう。

社員の努力に報いるため、労働環境の改善にも力を入れています。年間休日はここ8年で20日増加させ、有給休暇の取得日数も増えました。業務効率化を推進し、残業や休日出勤は減らしています。

また教育研修を充実させ、社内外研修の受講者はどんどん増加。資格取得報奨金や通信教育の費用補助も導入したことにより、自己啓発に取り組む姿が自然に見られるようになりました。その他、社員同士のコミュニケーションを活発化させるサンキューカードの導入など、様々な面から環境整備に努めています。

「人との出会い」とは、事業の相手ばかりを指すのではありません。意欲を持った人材ともまた、当社にとっては貴重な出会いです。多くの出会いを大切にしながら、私たちはこれからも石丸製麺にしか出せない価値を追求していきます。

編集後記

コンサルタント
森 友良

創業以来、120年にわたり、手間やコストを惜しまず、美味しくて品質の良いうどんを提供することに徹底的にこだわりぬいてきた同社。そんなものづくりへのこだわりと、提供する側の強い使命感に触れられた取材となりました。

また、その信念があるからこそ、融業や優秀な人材の入社などの新たな出会いが生まれ、その出会いによって新たな付加価値が生まれ続けている。それこそが、同社の強みであると再認識することができました。

香川が世界に誇れるうどん文化を守りながらも、常に進化し続けている同社の今後が非常に楽しみです。

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