企業TOPインタビュー

世界から求められる「ゲージ」で培った精密加工の技術。

株式会社森川ゲージ製作所
代表取締役社長 森川 正英

更新日:2023年11月08日

1975年生まれ。日本大学理工学部を卒業後、2000年に矢崎化工株式会社に入社。上司から「起業家になれ」と指導を受けながら、顧客の工場の改善活動につながる商材の提案営業を行う。入社3年目を迎えた頃、森川ゲージ製作所を経営していた父が体調を崩す。自身の仕事が軌道に乗っていた時であり、2年間悩んだ末に地元へのUターンを決断。株式会社森川ゲージ製作所に入社する。その後、様々な現場を経験して事業を学びながら父の経営をサポート。2014年、代表取締役社長に就任する。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

海外市場への展開を加速させる。

森川ゲージ製作所の創業は1955年。「ゲージ」とは、部品製造を行う際、一つひとつの寸法を揃える基準となる器具のことです。基準なので、寸分の狂いもない精度で製作する必要があります。その過程で磨かれた、表面をきれいに仕上げるラッピング技術は当社のコアとなり、これを原動力に事業の幅を広げていきました。

その一つが、クレーンなどの建設機械に用いられる油圧バルブです。高い圧力を扱うには、隙間を限りなく小さくしたバルブが欠かせません。ここに当社の表面加工技術が転用できました。船舶用エンジン機器のオーダーもいただくようになりました。燃料制御部品や過給機部品など、船舶の心臓部であるエンジンの中核を成す部品を設計・加工しています。

建設機械用油圧機器と舶用エンジン機器の二分野に加え、独自の技術により、建設機械用アタッチメントを開発。事業の柱として育ちつつあります。今後は海外での展開をより拡大させていきます。既にいくつかのメーカーや船主会社などから引き合いがあり、商談も進んでいる段階です。

自動車業界では脱炭素社会を目指し、エンジン車から電動車への切り替えが急速に進んでいますが、船の場合は事情がやや異なります。世界の物流の大部分を担う大型船のエンジンを電動に切り替えるのは、航続距離やバッテリーコストの点で現実的ではなく、その代わりに燃料をガスに変えて脱炭素化する方向へ進んでいます。

需要がなくならないだけではなく、燃料が変わると、これまで以上に各パーツの精度を上げなければなりません。これは部品の精密仕上げで評価を得てきた当社にとって、むしろチャンスなのです。

「100点」の製品は、技術者の手がなければ生まれない。

センシング技術の発達や自動化機械の進化で、機械製造・加工のレベルは確実に上がっています。設備さえ揃えれば、どの会社でも70~80点の部品は作れるようになりました。しかしこれらを100点の段階に持っていくには、機械の良し悪しだけでは及びません。良い機械をどう制御・コントロールするかも含め、人間の眼と手による技術が欠かせないのです。

もともとゲージから出発した会社だけに、当社には以前から高い技術を持つ技術者がいました。気温や湿度が変わると素材の状態も変わります。当社の技術者は素材の緩さや硬さの変化を手だけで感じ取り、高精度の加工を実現してきました。その職人技は今も当社の技術者に受け継がれています。ミクロン単位の幾何公差仕上げ、ラッピングができるのは中四国でほんの数社です。

もちろん、技術者の努力に頼るばかりではありません。設備投資も活発で、自動化設備を導入しています。中には香川のメーカーでは当社が初という産業機械や、全国でもなかなか見かけない特殊な機械もあります。

特殊でマニアックな機械は、コストも高くつきます。しかし、それらによって可能となる加工・処理があります。当社はそんなニーズに応えられるのです。付加価値の高い製品を作り、適正な対価をいただいているので高額な機械を導入できる、とも言えるでしょう。

機械製造の知識がある方なら、当社の工場に並ぶ設備を見ただけで、「この会社はどんなレベルの製品を作るのか?」と興味をそそられるのではないかと思います。

船のエンジン部品以外にも、精密加工の必要性が高まっていく分野は他にもあります。例えば、半導体製造のプロセスでも真空装置が用いられており、その内部でラッピング技術が必要になります。当社の技術は様々な分野のニッチな領域に活用できるのです。

「難しい案件だから、お願いしたい」と口コミで仕事が広がる。

国内の造船業界では、造船所を中心にTier1、Tier2の位置づけがはっきりしています。日本の舶用エンジンメーカーは国内の船主会社にしか販売できない、といったルールも明確です。

しかし、舶用パーツはグローバルに流通しています。海外では国内のようなルールが存在せず、船主がOKであれば比較的自由に取引できるのです。当社と海外の会社との商談がスタートしたのも、調達を自由にできる環境があればこそ。系列などにこだわらず、技術そのものを評価してくれるのでチャレンジのしがいがあります。

背景には、私たちのように精密加工を得意とし、しかも舶用部品の知識もある会社は世界にあまりない、という事情もあります。当社が作っている部品の素材は、粘りがあって硬くて削りにくい素材ばかりです。自動機械に加工を任せっぱなしにしていると、工具が摩耗してすぐダメになってしまいます。一品一葉のものづくりのように、細かく調整をする必要があるわけです。

私たちはずっと、珍しくて難しい分野に首を突っ込んできたおかげで、スキルが蓄積されていました。そのことがわかったのも、海外に出たからです。サプライヤーを尊重する海外の市場に出たことで、自らのポテンシャルに気づくことができました。

当社には専任の営業組織がなく、多くの新規の仕事は口コミで発生しています。「こういう案件があるんだけど、お願いできないか」とか、「この難しい加工ができるのなら、これもやってもらえないか」といった具合です。一つの案件にみんなで頑張って成果を挙げると、評判が次の仕事を呼んでくれるのです。

「難しい案件なので、他に安心して任せられるところがない」と言われれば、嬉しいですよね。それで成果を出すと自信にもつながります。当社で働くスタッフは、そういった点にやりがいを見出す人が増えてきたように思います。

そんな努力が実り、製品も取引先も徐々に広がってきました。今後は海外市場の進出と、建機用アタッチメントなど自社商品の開発に注力していきたいと考えています。さらに、自社製品を製造する上で導入した自動化設備のノウハウを基に、エンジニアリング事業への横展開も検討しています。

中小企業に特化した自動化設備というのは、あまりありません。多品種少量生産の多い中小企業では、自動化設備を高額で導入しても稼働率の面で問題があるため、手を出しにくいのです。この辺りの課題を解消するものが提供できるのではないかと見込んでいます。

グループ会社の経営を任せたい。

海外展開にしろ、自社開発やエンジニアリング事業にしろ、今後の当社はスタートアップ企業のような動きになっていくのではないかと思います。スタートアップは既存のクライアントが少ないので、走り回って商談を作り、売上を立てないといけません。「ちょっとそこまで…」という感覚で海外に行くような、フットワークの良さが必要です。

新たな市場で新たな取引先を開拓するのですから、スタートアップのようなアグレッシブさを持った人材に期待したいですね。「自分の稼ぎは自分で動いて作る」くらいのマインドの持ち主に出会いたいと思います。

海外事業やエンジニアリング事業が軌道に乗れば、事業部ごとグループ会社にして経営者を志向する方にお任せしたい、とも考えています。私は先々代、先代を継いで社長になった三代目で、辛うじて創業者の働いている姿を見て育ちました。創業者や当社の技術者が、何を重視してきたか。時代に応じて変えるべきことと、変えてはいけない当社ならではの価値とは何か。それらを後継に伝えることができます。

結局のところ、どんな会社もリーダー次第です。中小企業では同族で経営を回しているケースもありますが、経営は素養と覚悟を持った人に任せていいのではないかと思います。いきなり全体の経営を担えと言われると負担が大きいでしょうが、早いうちに子会社の経営をやっておけば、経験を積む良い機会になるはずです。

スタートアップ企業のようなマインドで挑戦。

将来的にはIPOも視野に入れています。新たな展開への資金調達が容易になるばかりでなく、知名度を上げることで、有為の人材に注目してもらいやすくなるかもしれません。人材に対し確かな見返りを提供するという面でも、IPOは意義があると考えています。

当社では、中途入社の人材が組織のコアとなって活躍しています。首都圏からUターンしてきた技術者は、当社に最新の製造装置を活用した高度な製造スキルをもたらしました。おかげで、職人技に頼りがちだった当社の製造現場のレベルが、何段も上がったと思います。

金融機関から転職してきた社員は、経理、財務、管理会計を整備し、未来を見据えた強固な経営基盤づくりを支えてくれています。いずれも前職では、中間管理職として活躍していた人たちです。そんな彼らが当社の理念や姿勢に共鳴し、経営幹部として会社を支えてくれる存在になっています。

大手企業で、能力が高くマインドもあるのにそれを活かせるポジションが回ってこない。気がつけば社内調整ばかりで、価値創出につながる行動は全然できていない。そんな方は、当社に来て、経営幹部や部門長を目指し、思う存分に力を発揮してみませんか。確かなマインドを持っている方なら、事業リーダーとして、あるいはグループ会社の経営者として活躍できると思います。

これらの経営はスタートアップの起業に近いかもしれませんが、当社には従来事業の手堅い基盤もあります。その土台を活かしながら、スタートアップ企業のようにがむしゃらに頑張る。そんな充実感を味わってみませんか。

編集後記

コンサルタント
森 友良

森川社長に初めてお会いした際、見せていただいた製品にとても驚いたのを今でも覚えています。非常に複雑な構造をしており、通常であれば複数の部品を組み合わせて作るものを強度担保のためにステンレスの塊から削り出したもので、素人の私でも一目で技術力の高さがわかるものでした。

他社が受けたがらない難易度の高い分野に挑み続けることで高い技術力を磨き続けてきた森川ゲージ製作所。今回のインタビューでは、その技術力が今まさに世界で認められてきているというお話を聞くことができ、とても胸が熱くなりました。創業以来培ってきた高い技術力をベースにしながらも、スタートアップの精神で新たな挑戦を続ける同社の今後が楽しみです。

関連情報

株式会社森川ゲージ製作所 求人情報

企業TOPインタビュー一覧

ページトップへ戻る