観光+公民連携+α…で地域に賑わいを生む “SETOUCHIビタミンカンパニー”。
穴吹エンタープライズ株式会社
代表取締役社長 三村 和馬
1971年、岡山市生まれ。岡山会計学館経理専門学校(現ビーマックス)に進学し、在学中に宅建資格を取得。1992年、同校を卒業し、穴吹興産株式会社に入社。不動産営業を8年経験。その後、社長室に異動し、秘書としてグループ会社間の調整、M&Aや事業再生案件など、多彩な業務を担当する。2008年、穴吹エンタープライズ株式会社に出向、香川県県民ホールの施設管理に携わる。以降、総合企画室長、執行役員兼香川県県民ホール館長、取締役公民連携(PPP)事業部長を歴任。2019年、あなぶきエンタテインメント株式会社の代表取締役社長に就任。2022年、穴吹エンタープライズ株式会社の代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
中四国最大のアリーナ運営も決定。
あなぶきエンタープライズの誕生は1987年。ホテルとしてのスタートが第一歩でした。しかし、設立35年を経て当社の業態は今や大きく様変わりしています。
ホテル、旅館、ゴルフ場や劇場、各種道の駅の運営といった観光関連の事業に加え、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)、すなわち公民が連携して公共サービスを提供する役割が急速な勢いで拡大しているのです。香川県県民ホール、高松国際ホテル、サンメッセ香川や香川県総合運動公園など、“香川の顔”と言えるシンボリックな施設の多くを、当社が運営しています。
2025年新設の香川県立アリーナ(あなぶきアリーナ香川)も、当社を代表とするコンソーシアムが指定管理者に選定されました。メインアリーナの固定席は5,000席以上、可動席も利用すると最大1万人規模のイベントも開催できる中四国最大の屋内型アリーナの管理が決まり、当社の管理施設数は16となりました。
サンメッセ香川の指定管理を受け持ったのが2004年。これを皮切りに、公民連携の様々な案件を手がけるようになり、約20年が経過しました。知見と経験を重ねてきた当社にとって、県立アリーナは集大成の仕事だと認識しています。
アリーナには、単なる公的施設としての保守的な運営だけではなく、スポーツやエンターテインメントといったイベントまで含めた運用が求められます。県民ホールや総合運動公園などを担当することで、私たちはハード施設の管理だけでなくソフト部分の企画やハンドリングも行いました。そうした経験がアリーナにつながったのです。
アリーナの指定管理に取り組むにあたり、私は自社だけでなく、東京のエンタメ系の会社まで巻き込んだチームアップを行いました。新たなコラボを基盤とすることで、当社はさらにステップアップできる、と期待しています。
「地域に生かされ、生きる」の無限ループ。
当社はあなぶき興産グループに属しています。同グループは「地域に生かされ、生きる」という経営ビジョンを掲げています。このビジョンをまさに事業として体現したのが、あなぶきエンタープライズです。
公民連携の仕事は、コンペやプロポーザルに応募し、選ばれて初めて業務が始まります。地域社会から役割を与えてもらわなければ、スタートラインにすら立てません。つまり「地域に生かされ、生きる」ことができるわけです。
請け負った役割に対しては、与えられた時間の中で全力を尽くします。そうすると、「あなぶきはいい仕事をする」と次の役割を提示してもらえます。次のコンペに呼んでもらう、などのチャンスが生まれるのです。
一つひとつの業務は、それほど派手でもないし、一般の人の目に触れない地味なものかもしれません。しかしそれらを丁寧にこなし、期待以上の成果でお応えできれば、次の道が拓ける。「地域に生かされ、生きる」のループが回りながら、任される仕事の規模や意義がだんだん大きくなっていく。
その積み重ねが、アリーナ受託という成果を導いてくれました。もちろん、アリーナが終着点ではなく、ループはその先も無限に続いていきます。
定まったドメインのない、サービスの総合商社。
当社は大きく分けると、観光と公民連携、もう少し細かく説明すると、ホテル・旅館、スポーツ・健康増進、サービスエリア、公民連携(PPP)の4カテゴリーで事業展開しています。しかしこれが固定的ドメインと思ったことは一度もありません。むしろ定まったドメインのない、「サービスの総合商社」とでも呼べばよいのでしょうか。「他に比類なき会社」でありたい、と考えています。
今、展開している事業は、あくまで「手段」に過ぎません。では当社の「目的」は何か。 あらゆるサービスを通じ、私たちの根拠地である瀬戸内圏に賑わいを生み出し、人々に面白さを提供し、地域を元気にすることです。
ホテルも、スポーツ増進も、道の駅も、すべては地域創生のために行っていることです。その目的に叶うことであれば、まったく新しい事業が生まれてもいい。現状の事業に拘泥するつもりはありません。
構想はいくつもあるのですが、お伝えできる範囲で言うと、エンタメ分野にはもっと深く取り組んでみたいですね。今も舞台の企画などはやっていますが、より多彩なエンタメを手掛けられるようになりたい。県立アリーナという大きなハードウェアが揃うと、箱に入れる中身、すなわちエンタメがより重要になってきます。
香川だけでなく中四国、さらに域外の都市圏からも人がやって来るようなエンタメを提供できるかどうかが、カギを握っています。PPPで公共施設を管理しながら、そこで実施するエンタメまで面倒を見る会社は、私の知る限り地方にはありません。まさに、ONE&ONLYの存在です。
世界に誇れる観光資源が溢れている。
瀬戸内は、世界に誇れる観光資源です。高いポテンシャルを持っているのに、それを地域のにぎわいづくりに十分活用できているかと言えば、そうではありません。当社は、あなぶきグループのシナジーも活かしながら、この瀬戸内の海と島の可能性を探っていきたいと思います。
PPPで全国に展開するという選択肢もありますが、それは「地域に生かされ、生きる」当社の取るべき戦略ではありません。日本のどの観光地にも負けない、瀬戸内の母なる海があるのですから、全国に気移りする必要もないでしょう。
当社にはホテルがあるし、施設管理もやっている。あなぶきグループには旅行会社があり、タクシー会社もある。グループ内でツアーの生成からトラベルの実施、交通の提供まで行えるわけです。
後は当社がエンタメのノウハウを身につければ、アリーナを活用したエンタメツーリズムも可能になるでしょう。アリーナでのイベントを軸に観光をプラスすれば、地域を回遊する流れが生まれる。ホテルも交通機関も、地域経済全体にプラスをもたらすはずです。
瀬戸内には大きな可能性が眠っています。その瀬戸内を元気にしたい。言うなれば「SETOUCHIビタミンカンパニー」が私たちの目指す姿です。
EQを重視し、CS・ESナンバーワンの会社に。
モノづくりは設計図があるけれど、サービスに設計図はありません。だからこそ、設計図というか、サービスの有り様を見える化しなければならない、とも考えています。
キャリアの長い従業員は、言葉にしなくてもやるべきことをわかっていたりします。その暗黙知を形式知にして見える化することで、全従業員が共有できるスキルになるでしょう。これはホテルであっても、レストランや道の駅であっても、PPPであっても同様です。
サービスとは「感情労働」です。知識も体力も必要ですが、一番大事なのは感情、お客様に対する共感性の高さです。その共感性は、お客様に対してだけでなく、働く仲間についても向けられなければ、うまく行きません。だから当社では、特にEQ(心の知能指数)を重視しています。
また、ES(従業員満足度)も大切にしたいですね。サービス業はとかくCS(顧客満足度)を第一に考えがちですが、ESの低い職場で高いCSなど実現できるはずはありません。特に各職場でメンバーを管理するマネージャーは、ESに注力してほしいのです。従業員満足度が向上したら、メンバーらは間違いなくお客様に対し、CS第一のサービスを提供できるようになるでしょう。
マネージャーに昇進するような人間はすべて、現場でお客様のことを考えた、CS第一のサービスを実践してきたはずです。マネージャーになったらその対象が、「お客様」ではなく「各メンバー」に変わるだけ。本質に違いはありません。ESナンバーワンの職場を作ることで、CSナンバーワンの会社になれるのです。
面白いことなら、何をやってもいい。
「サービス」に関連するあらゆる事業に取り組む当社では、多種多様な人材が活躍しています。極端な例で言うと、レストランの料理人と、運動公園の施設管理担当では、使用する言語が全く異なります。まさに人材のサラダボウルです。
この多様性こそ、当社の強みだと考えています。あらゆる職種が混在することで、触発される。シナジーが生まれる。互いの弱みを補完し合える。そして新たな発見が生まれるのです。
最初はホテルを志向して入社した人が、当社のいろんな事業に触れ、多彩な職種の人々と交流するうちに「自分は実はこんなことがやりたかった」と、新たな方向性に気づくかもしれません。
当社に「やってはいけない事業」はありません。人に感動を与えるものなら、何をやってもいい。そんな当社には「面白いことがしたい」という、好奇心の強い人が集まってほしいですね。
ホテルがやりたい、劇場運営に携わりたいというのもいいけれど、方向を定めずに「3年くらい一つの事業をやったら、次は新しいことをしてみたい」といった意欲も大歓迎です。一つの領域でお客様との関係を深めていく「農耕型」人材も、新たな市場・サービスの開拓を得意とする「狩猟型」人材も、どちらも当社には活躍の場があります。
ただ一つ、大事にしてほしいのは、「お客様への成果」と同等に「仲間への貢献」を果たす、ということです。自分一人で突っ走るのではなく、仲間と力を合わせてサービスを提供し、チームに貢献するという姿勢を忘れないでください。お客様とも仲間とも共感し合えるのが、EQの高い人材です。一緒に、瀬戸内を元気にしていきましょう。