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HD体制で事業を加速。「独創力」による“一歩先行く提案”で世界を進化させる。

四国化成ホールディングス株式会社
代表取締役社長 渡邊 充範

更新日:2023年6月28日

1957年生まれ。1980年、中央大学文学部を卒業後、四国化成工業に入社。まだ誕生間もない同社の建材事業には広報力が不足していたため、文系出身者の活躍の場があるかもしれないと考えての決断だった。以降、建材事業の広告宣伝課、物流購買、秘書課を経て経営企画室に配属。中期経営計画の策定を4度担当する。2002年、経営企画室長に就任。その後、取締役執行役員、取締役常務執行役員などを歴任。2020年にスタートした長期ビジョン「Challenge 1000」の策定にも深く関わる。2023年、持株会社体制への移行と同時に、四国化成ホールディングスの代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

創業のエネルギーとなった「独創力」。

四国化成の創業は、戦後間もない1947年。二人の若い創業者が、化学繊維レーヨンの原料、二硫化炭素の革新的製法を発明したことがきっかけでした。当時、二硫化炭素を製造する会社は国内に20数社もありましたが、いずれも製法の効率が良くなかったのです。四国化成は最後発であったにも関わらず、その画期的な製法により市場を席巻。一躍、業界のリーダーとなりました。

創業から10年後、中性無水芒硝という事業が誕生。これも、当時にはなかった製法の確立により、圧倒的な競争力を得たものです。1970年には、化学の知見を生かした左官壁材の「ジュラックス」を発明。現在に至る建材事業の端緒となりました。

このように、当社の歴史は、独創的な技術を原動力に道を切り拓くことで築かれたものです。すなわち当社は、その出発点から「独創力」に溢れていたわけです。「独創力」とは当社にとって経営理念であるだけでなく、根底に刷り込まれたDNAと言っても過言ではないでしょう。

上記のように、製法技術からスタートした当社ですが、現在、研究開発にも力を入れ、事業は大きく広がっています。化学品分野では、ラジアルタイヤ製造に欠かせない不溶性硫黄 「ミュークロン」は世界2位のシェアを誇っています。

その他にもプール用殺菌・消毒剤「ネオクロール」をはじめ、世界における水の衛生環境に貢献する塩素化イソシアヌル酸。そして、電子機器に使われるプリント基板の信頼性を支えている世界トップシェアの水溶性防錆剤「タフエース」など。どれも世界中で利用されています。

建材分野では、業界初の湿式内装仕上材「JULUX(ジュラックス)」。業界で初めて「Gマーク(現在のグッドデザイン賞)」を受賞した「アコーディオン門扉」。そして、これもグッドデザイン賞を受賞した後方支持カーポート「マイポート」と、多彩な製品が並びます。

これほど多くの分野でシェアを獲得し、高く評価される製品を生み出せたのは、まさに「独創力」というDNAが当社に根付いていたからでしょう。

ニーズが顕在化する前に、一歩先を行く。

しかし、独創力によって歴史が築かれたからといって、現在を生きる私たちの中に、先達に匹敵する独創力があるかどうかは、別の問題です。頭で「独創力が大事」と考えていても、行動力が伴わなければ無いも同然です。

当社は長期ビジョン「Challenge 1000」を2020年からスタートさせています。ここで、「独創力で、“一歩先行く提案”型企業へ」というビジョンを提示しました。“一歩先行く提案”とあえて強調しているのは、お客様や一般消費者から言われて初めて動き出すのでは意味がないからです。言われる前にキャッチして手がけなければ、タイムリーにニーズに応えることはできません。

水溶性防錆剤「タフエース」などがまさに好例でしょう。技術革新の速い電子基板の世界では、求められてから作り始めたのでは間に合いません。世の中のニーズの先を見て、顕在化する前に研究を進めたからこそ、アドバンテージを得られたのです。これこそが、私たちの目指す独創力の有り様です。

“一歩先行く提案”を実践するには、研究開発への注力が必要だと思います。これは、R&Dセンターだけが責任を負う、という意味ではありません。生産技術も製造も、あるいは営業や間接部門だって、それぞれの立場で研究開発マインドは発揮できるはずです。どの部門も研究開発の姿勢を怠らず、潜在的なニーズをキャッチする。それによって、“一歩先行く提案”が生まれるのではないでしょうか。

「従業員ファースト」。ひとづくりを最重視。

「Challenge 1000」でもう一つ明確にしたのが、「四方よし(マルチステークホルダーへの貢献)」という姿勢です。お客様が大事なのは、言うまでもないでしょう。上場企業である以上、株主が大事なのも当然です。

また企業は社会の公器であり、様々な形で地域に貢献するのも重要な役割の一つ。地域イベントへの協賛や、地元で開催されるハーフマラソン大会のメインスポンサー、地元高校での化学の出前授業、塗壁を使った子ども向けのワークショップ開催などに力を入れてきました。

そして、最も重視したいのが「従業員ファースト」です。今回、当社はホールディングス体制に移行しましたが、だからこそ「従業員ファースト」に真剣に向き合っていかなければならない、と肝に銘じています。

事業は各事業会社に任せるのですから、持株会社が担うのは人づくりです。人づくりで各事業に還元することが、持株会社の最大の役割だと認識しています。多様な働き方と、挑戦によって成長できる環境をつくりたい。そうやって従業員を尊重する会社でありたい。そのための具体的な施策を次々に打ち出していきます。

持株会社体制の狙いは「大胆な権限委譲」。

前述の通り、当社は2023年1月から持株会社体制へ移行しました。四国化成の2大事業である化学品事業と建材事業を分社化。それぞれ「四国化成工業株式会社」と「四国化成建材株式会社」という事業会社としてスタートを切りました。そこに、間接業務を担う「四国化成コーポレートサービス株式会社」を加え、持株会社である「四国化成ホールディングス株式会社」がグループを束ねる、という形態になります。

狙いとしては「大胆な権限委譲」「ガバナンス・本社部門の再定義」「経営人財の育成・強化」です。中でも、権限委譲は喫緊の課題でした。化学品と建材はそれぞれマーケットが異なり、シナジーもそう簡単ではありません。それが分離したことで、経営判断がとてもシンプルに行えるようになりました。

おかげで各事業のスピード感が確実に高まったのです。さらに各事業会社から、チャレンジしたいというテーマが次々に浮かんできている状態です。やはり意思決定がシンプルになったことで、いい兆候が出てきているのだと思います。

また、会社が増え、経営に携わるポジションが新たにできたので、どんどん若手を登用しています。「次世代の経営人財の育成・強化」という面でも、ホールディングス体制は好影響を及ぼしています。

「使命感」を持った人財に期待したい。

「Challenge 1000」のゴールとなる2030年の段階で、売上高1,000億円・営業利益150億円という目標を掲げています。現在の実績から考えると、約8年で売上・営利とも2倍近くにするという高い目標です。

達成するには、チャレンジが欠かせないでしょう。2021年、当社は徳島工場北島事業所の新プラント「TAP-4」を稼働させました。ここで手がけるのは、5G通信や車の自動運転技術などに用いられる最先端で超微細な半導体を製造するための材料の製造です。

ppb(10億分の1)レベルで金属不純物をコントロールしなければならない、という極めて高い生産技術・品質管理が求められる材料を、TAP-4では試作から量産まで一貫体制で対応します。これに代表されるように、様々な領域でチャレンジを進めていこうと考えています。

そのために欠かせないのが、人財です。あるジャンルにおいては、一人でミッションを完結できる専門性を持った人も必要でしょう。TAP-4の例からもわかるように、開発や生産技術だけでなく、情報、プラント管理、品質管理、品質保証といった分野のスペシャリストが揃わなければ、世界最先端の製品は生み出せません。

一方、多様な人と協業しながら課題を克服するチームワーク型の人財も大事です。いずれの人財にも欠かせない資質は「使命感」ではないでしょうか。自分にできること・自分の強みを理解し、それを活かしてやり通す。そんな使命感を持つ人が、どの分野においても重要です。

中途入社組の「第三者的視点」は貴重。

社外からやってきた中途入社のメンバーは、当社の強み・弱みを客観的に見ることができると思います。一つの組織で働き続けていると見えにくい違和感や非効率に気付けるのではないでしょうか。その第三者的視点は、とても貴重です。今や従業員の約4割が中途入社組ですが、彼・彼女らのおかげで、当社の成長は加速しています。

今後、特に化学品事業でグローバル展開が加速します。既に化学品では、50%以上が海外向けに輸出されていますが、この比率はどんどん高まるでしょう。しかし、海外における販売・生産網はまだ脆弱です。販売・製造のグローバル化を考えた時、現地でリーダーとして活躍してくれる人財も必要となるでしょう。

「Challenge 1000」のゴールを迎えた時、「四国化成はこの10年で長足の進歩を遂げた」と言われるような会社でありたい、と思います。そのために大事なのは、中身です。あなたならではの強みで、四国化成の中身をより強靭にして事業を発展させてください。そのための活躍の場は、もう用意されています。

編集後記

チーフコンサルタント
溝渕 愛子

2023年1月に持株会社体制に移行し、新たに四国化成ホールディングスの代表取締役社長に就任された渡邊社長。

優しく冷静なトーンでお話される一方で、自身のご経歴についてはユーモアを交えて語っていただき、社長のお人柄を感じられました。そして、長期ビジョン「Challenge 1000」について語られる際は、一歩先を見据えた対応力とチャレンジ精神を持って世界で戦うグローバル企業としての覚悟と使命感が伝わってきました。

香川県から世界で活躍するグローバルニッチ企業としての同社のチャレンジを微力ながら応援していきたいと、改めて思いを強くしたインタビューとなりました。

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