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建設ロボットを世界に発信。世界一ひとにやさしい現場を創る。

建ロボテック株式会社
代表取締役CEO 眞部 達也

更新日:2022年5月25日

1976年生まれ。香川県出身。高校を卒業して調理師専門学校に進んだ後、レストランに就職。その後、父親が経営する有限会社都島興業に入社。建設現場の非効率性という問題を解決するため、2013年にEMO株式会社を設立。現場の作業効率化を大きく変えるVバースペーサーなどの製品を開発する。さらに、4年を費やした『鉄筋結束トモロボ』の開発を機に、2019年、建ロボテック株式会社へ名称変更。トモロボは2021年、公益社団法人発明協会主催「令和3年度四国地方発明表彰」において最高位の「文部科学大臣賞」受賞。続いて、2022年りそな中小企業振興財団・日刊工業新聞主催「第34回 中小企業優秀新技術・新製品賞」において同じく最高位の「中小企業庁長官賞」を受賞。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。

「昔からこうだ」という理由でつらい作業を続けるのはおかしい

建設業界に入る前、私は料理人として働いていました。父が建設職人だったおかげか手に職を持つ職人への憧れがありました。両親が共働きだったため、自分でよく料理をしていたこともあり料理の道へ。これと決めたことはとことんやる性格で、料理専門学校では、首席で卒業するほどでした。料理の世界は、とても科学的です。一定条件を満たすとタンパク質が固まる、この温度で何分熱すれば滅菌できる…など、明確な理論がある。理論を持って様々な味を創造できる面白さがありました。料理の道はとても面白く、やりがいを感じていましたが、一方で中途半端な仕事をするシェフのもとでは働きたくないという気持ちもあり、当時働いていたレストランをやめた離職期間中に、次の職場を探す間のつもりで父の経営する有限会社都島興業を手伝うことになりました。

その後、様々な理由が重なり22歳から父の跡を継ぐ34歳まで、鉄筋職人として現場で働きました。1日で2tもの鉄筋を担いで現場で碁盤の目のように組み、その交点を針金で縛るんです。コンクリートの骨格にあたる鉄筋を固定させる結束作業は、とても重要ですが、これはかなり重労働です。夏は炎天下、冬は寒風吹きすさぶ屋外で、腰を曲げて数千、場合によっては数万もの結束を行うのですから。なぜこんな大変なことをやらないといけないのか、父に尋ねると「昔からずっとこうやっているから」と。おかしいと思いましたよ。料理は、理論に基づく科学的な世界です。一方、建設では「昔からそうだったから」と工夫もせず、忙しくなると休みもすっ飛ばして頑張るという根性論がまかり通っている。私は現場で働く間、子どもの運動会にも行けませんでした。土日も働いていましたから。「つらく、休みもなく、進歩もない…こんな職場に若手が来るはずもない!」と痛感しました。

高度な技を持つ建設職人が評価されない。そんな現状を変えたい

建設職人は、高度な技術を持っているんです。初めて高層ビルを建てた職人は、足がすくむ高所を命綱一本で飛び回り、工事を進めました。富士山の観測所の鉄筋工事を行った職人は、トラクターを使って鉄筋を運び上げ、2ヶ月しかない工期の中で組み上げたそうです。これらは人間国宝に認定されていいくらいの高度な技だと個人的には感じています。しかし、これらの技が評価されることが少ないのが現実で、鉄筋で言えば何kgの工事を行ったか、という「量」で金額が決まる。高度な技を持つ職人も、結束などの単純作業を黙々と積み上げないと、報酬が得られない。それでは社会的にも金銭的にも地位が向上するわけがありません。

私は、特に経営者になってから、若い職人に「楽してもらいたい」と考えるようになりました。経営者が何の努力もせず、職人に「もっと頑張れ」なんて根性論をもちだすのはおかしいですよね。職人が頑張れるよう、頭を使うのが経営者の役目じゃないですか。もともと科学的思考が好きだったこともあって、そこから私は建設現場で「楽」をするためのいろんな「発明」に没頭しました。最初に発明したのは「ノート」です。現場ではメモをするためノートを持ち歩くのですが、汗ですぐ濡れて使えなくなる。そこで耐水紙を使ったノートを作り、鉄にも書けるペンを持たせたところ、現場で快適に使えるようになったのです。これは製品化していませんが、評判が良くて測量士などから「どこで買えるのか」と問い合わせをいただくほどでした(笑)。

「鉄筋結束トモロボ」を開発。つらい結束作業を35%削減

2013年、都島興業のグループ会社として、建設現場の省力化機械・設備の開発を行うEMO株式会社を設立。2017年には、鉄筋メッシュ敷設工事の圧倒的な省力化を実現する「Vバースペーサー」を開発。現在の建ロボテックと社名を変えた翌年の2020年には、「鉄筋結束トモロボ」を開発、販売を開始しました。

トモロボは、手持ちの電動工具をセットするだけで、結束という単純で量が多く、負荷のかかる仕事を自動で行ってくれる「人と共に働く」協働型ロボットです。碁盤目状の鉄筋を自走し、磁気センサで交点を発見、3秒ほどで結束。これにより、結束作業全体の35%程度が省力化できます。職人はつらく単純な作業から開放され、より高度な分野に注力できるようになるわけです。現在、10社以上のゼネコンや鉄筋工事会社に導入され、100ヶ所以上の現場で活躍しています。

職人から「俺たちの仕事を奪う気か!」と迫られたこともありました。省力化とは労働力を削減することですから、そう見えてしまう面があるのは事実です。しかし私は、人を減らすことで、元請けや経営者を潤わせるためにトモロボを開発したのではありません。職人をしんどい作業から開放し、きちんと休めるようにして、高度な技術に見合った正当な評価と対価を得られるようにするためです。ですから原則として、トモロボは元請けには売らず、工事会社や職人などに提供しています。そうすれば、職人が受け取る報酬が減らされることはありませんから。

「世界一ひとにやさしい現場を創る」という使命に燃えている

四国の鉄筋屋で初めてベトナム人の技能実習生を採用したのも、恐らく当社だと思います。いろいろと話を聞いてみると、彼の来日のために家族は莫大な借金をしている。だから彼は逃げることもできず、しんどい作業をさせられる。それはおかしいでしょう。日本人であれベトナム人であれ、若い者が古い美学を押し付けられて苦しむ。そんな現場はおかしい。そんな建設業界を変えたいのです。あつれきはありますが、気にしません。既得権を持つ人々のわがままなど構っていられません。私が見据えるのは、業界の未来なのです。

私の好きな言葉に、元総理大臣・小渕恵三氏の「宿命に生まれ、運命に挑み、使命に燃える」というものがあります。私は鉄筋屋という宿命を背負って生まれ、業界にはびこる古さ、おかしさという運命に挑むため、ロボット開発に着手しました。そして今、職人の地位を向上させ、若者にとって魅力のある職場にしたい、という使命に燃えています。「世界一ひとにやさしい現場を創る」というミッションと、「新しい価値の創造によって、建設現場を楽で楽しくする」というビジョンの実現に邁進しています。

海外進出での手応えから確信に変わる

2022年1月、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大級の建築建材展「World of Concrete 2022」に、当社はトモロボを携え初出展しました。そこで大きな手応えを感じました。アメリカは、スピード感が違う。上司におうかがいを立てて、本社に稟議を通して…なんてまどろっこしいことはせず、行けるとなったら「やってみましょう」と返ってくる。建設業界の人手不足が日本より遥かに深刻だという事情もあるのでしょう。

私はトモロボ開発当初から、世界市場をイメージしていました。現場の困りごとは世界共通なのだから、ニーズは必ずあると。アメリカに渡って海外市場を見て、その思いは確信に変わりました。国内とか海外とかにこだわらず、本当に困っている人のところへ、早く届ける方がいい。世界に認めてもらった後で逆輸入、という形の方が、日本での浸透は早いかもしれません。

今は鉄筋結束用のトモロボですが、建設現場でロボットへの置き換えが可能な作業は他にもたくさんあります。単純作業・重労働は可能な限りロボットに任せ、職人は高度な技術の発揮に集中できる。そういう現場にしていきたいですね。まだ構想段階ですが、建設現場のDX化にも力を入れます。ロボットの活用とDX推進により「力がある成人男性にしかできない」のではなく、力の弱い女性や、身体的にハンデキャップを持つ方でも働ける現場にしていきます。「世界一ひとにやさしい現場を創る」が当社のミッションですが、「ひとにやさしい」とはどういうことか、本質を突き詰めたいと考えています。

世の中を本気で変えたいと思う仲間を求めています

当社のミッションやビジョンに共感し、協力してくれる仲間がまだまだ必要なのは、言うまでもありません。仕組みやルールはまだまだ未整備で、全力疾走をしながら一つ一つ構築をしている状態なので、今のメンバーに求められるのは当事者意識をもって行動し、ないものは自分たちで創り上げるというマインドです。また、当社の仕事はチームワークが欠かせません。企画、営業、開発、製造、事務などの部署がそれぞれの持ち場のプロとして活躍し、その力を合わせることで成果に繋がっていくので、お互いをリスペクトし合える関係性を大事にしています。人生を懸けて、世の中を本気で変えたいと思って動くことにこそ、ベンチャーの存在意義はある。当社はそういう集団でありたいし、そういう集団こそ、世界に羽ばたくことができるのだと思います。

編集後記

チーフコンサルタント
佐々木 一弥

眞部CEOとはトモロボが完成しつつある頃に初めてお会いさせていただき、その時に部屋の壁にびっしりと未来に向けての計画が描かれている様子に驚いたことを今でも覚えています。当時は、今のような立派なオフィスもなく、人もいない状態でしたが、スタートアップとしての躍進がまさにここから始まるという可能性を感じました。現在はプロダクトが現場で利用され始め、「世界一ひとにやさしい現場」の実現が始まっています。あの時、壁に描かれていた未来が一つ一つ実現に向かって進んでいくことをこれからも応援しています。

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