オリジナリティーを追求し、瀬戸内から世界に向けた仕事を。
協和化学工業株式会社
代表取締役社長 木下 幸治
1960年生まれ。京都府出身。
京都大学工学部石油化学学科(在学中はアメリカンフットボール部に所属)を卒業後、1985年に三井物産株式会社に入社。
2012年、協和化学工業株式会社に執行役員社長付として入社。
2013年6月、取締役に就任。営業部長、医薬品営業部長などを歴任。
2018年6月、取締役副社長に就任。
2021年4月、代表取締役副社長に就任後、同年10月、代表取締役社長に就任。
「グローバル・ワンチーム」を信条に掲げ、国内・海外グループ1,000人の従業員が一丸となって働ける環境づくりの実現に注力。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。
「面白い技術を持っている会社」という第一印象を抱いた、30歳の頃
私が協和化学工業(以下、“協和”)に転職したのは2012年、52歳の時です。しかし協和のことは、それよりはるか20年以上前、前職時代ニューヨークに駐在していた30歳くらいの時から知っていました。私は商社の営業マンでしたが、理系出身なので化学もわかります。その私から見た協和は、「面白い技術を持っている会社だなあ」という印象でした。
当時の事業の柱は、今も中核のマグネシウム化合物や、合成ハイドロタルサイトです。協和の研究開発スタッフと共に、樹脂添加剤分野の顧客を訪問する機会が多かったのですが、オリジナルの技術や機能を説明すると、お客さまが目の色を変えるんです。通常は容易にアポイントが取れない海外顧客の技術部隊でも、協和の名前を出すと容易にアポイントを取れたので楽をさせてもらいました(笑)。
日本への帰国時、配属希望を聞かれた私は、躊躇なく「協和を担当させてほしい」と、当時の協和主管部のあった三井物産関西支社に戻り、引き続き協和を担当しました。
7年後、今度はヨーロッパで、合成ハイドロタルサイトが注目を集めました。その当時は、塩化ビニール樹脂の安定剤に鉛系のものが使われていましたが、毒性問題で鉛が使用できなくなるという流れが欧州で起こり、代替の樹脂安定剤として協和の合成ハイドロタルサイトを主原料とした技術が採用されたのです。
当時の社長であった故松島慶三氏は、オランダ工場の設立を決断。私はサポートのため欧州に渡り、4年半、協和の販路づくりに精を出しました。帰国後も協和に関わり、結局協和とは16年もの付き合いになりました。
商社マン時代に関わった化学品メーカーは多々あります。大都市圏に本拠を置く超大手とも、丁々発止で渡り合ったこともあります。しかし、52歳で次の進路を選ぼうとなった時、私は躊躇なく協和にお世話になることを決めました。それだけ、協和のマグネシウム化合物や合成ハイドロタルサイトは、「ワクワクする技術」だったんです。
国内外で高いシェアのマグネシウム化合物・合成ハイドロタルサイト
協和の製品は、ノンハロゲン難燃剤・塩化ビニール樹脂などの安定剤として、世界中のメーカーに利用されています。合成ゴムやスマホなどの情報家電、自動車部品、建築資材、通信ケーブル、包装資材、鉄鋼や電子材料、農業フィルム、繊維など、あらゆる分野に採用されています。原料は海を起源とした安全な物質なので、医薬品原薬や医薬品機能性添加剤など医薬分野においても、世界中で多く採用されています。
協和が使用している原料は、瀬戸内海の海水です。自然の恵みを大切にしながら、従業員ひとりひとりがオリジナリティーを追求し、世界に向けて技術や製品を発信している。工業用製品のシェアは国内外で60%以上、医療用医薬品のシェアは国内で50%程度。私がワクワクするのも当然でしょう。だから、初めて生活する香川にやってくることに迷いはありませんでした。
来てみて感じたのですが、香川は本当に素敵な所です。海に面していて、食べ物がおいしい。山でロードバイクを走らせたり、マリンスポーツも楽しめる。それでいて、東京の大手町にいた時と同等のクオリティー、グローバルな仕事ができる。最高なところだと思います。
当社にとっては、瀬戸内海に面していることが、事業の上でも、働き方の上でも重要なキーワードになると思っています。瀬戸内海は当社の原料となる天然のマグネシウムを提供してくれるだけでなく、仕事をするための活力を与えてくれます。壁にぶつかっても、自然豊かな中でリフレッシュできる。コンクリートと人混みに囲まれて仕事をしていた頃のことを考えると、夢のようです。
アグリバイオやフードなど、新たな動きにも積極的
マグネシウム化合物、合成ハイドロタルサイトを軸とする化学品・原薬事業、医薬品事業は、今も変わらぬ協和の主要事業です。比較的ライフサイクルの長い製品ですが、だからといってあぐらをかいていられるわけではありません。事業環境は常に変化します。既存事業の基盤を維持・拡大するのは当然として、次につながる動きを起こすのも私の重要なミッションだと認識しています。
その一つが、アグリバイオ事業です。アグリ(農業)事業とバイオ事業とのハイブリッド事業として新規に始めました。アグリ事業において、協和として農業技術を習得する事を目指しています。
手始めに、北海道旭川にある夏イチゴ苗の品種改良や製造・販売をしている会社と提携して、温暖な地方でも栽培できる美味しい夏イチゴの新品種開発を共同で進めています。通常、夏イチゴは北海道のような涼しい地域でしか生育しないのですが、西日本でも栽培できるようにしたいと品種改良しています。
一方、協和独自のバイオ技術であるエンドファイトという植物の共生菌を夏イチゴ栽培に使用し、夏イチゴの糖度向上や収穫量アップに貢献しようとしているのです。
このアグリバイオ技術により、過疎化が進んでいる地域の狭い耕作地しか持っていない農家が、できるだけ単位耕作面積当たりの収穫高が上げられる農作物を提供したいと思っています。アグリ技術で新品種を開発し、バイオの力で更にアップグレードする、ハイブリッド型事業と考えてもらえばいいでしょう。
実績を挙げるのはこれからですが、エンドファイトによって作物の種々栄養価が上がるなどの科学的データは揃ってきています。また、アスパラガスやスイートコーンなど、多くの農作物に横展開できる可能性もある。あと数年で収益を挙げられる事業に育てていきたいですね。
もう一つ、フード事業にも着手。2017年に作ったキスマ・フードサービスという子会社を中心に推進しています。自社の社員食堂を開設する際、できるだけ社員に栄養価の高い野菜を食べてもらいたいという当時の故松島会長の願いから、農家さんに協力してもらいエンドファイトで栄養価を上げた色々な野菜を仕入れるという事を始めました。
また、最近ではキッチンカーなども考え始め、コロナ禍で変わりつつある食のライフスタイルの変化に対応できないかと試行錯誤しています。
さらに、バーガーキングとFC契約し、宇多津に四国一号店をオープンしました。これも一種のオリジナリティーですかね。将来はアグリバイオ事業から生み出された産品を、フード事業で展開できるようなシナジーも生み出せればよいと考えています。
今、社会は大きな変革期に直面しています。コロナ禍によって仕事や生活のスタイルが変わりつつある。また、カーボンフリーやマイクロプラスチックス、プラスチックのリサイクルなど、協和の接している産業界でも大きな動きが生じています。
こういった大きな変革時には、これまでのありきたりの考えは通用しないことも多く、新しい目線や考え方が必要です。こういった時代こそ、新しいことを考えられる頭や、物事を違った角度で見られる目が必要になると思っています。
社員が主役。Global One Teamで、オリジナルな技術を発信
新たな動きを起こし、軌道に乗せるため、最も重要なのが人材です。私から見て協和の最大の強みは、やはり社員です。オリジナルな技術で勝負しようと意欲を持つ社員の存在が、事業の推進力になっています。事実、新規事業のアグリバイオは、研究部門にいたひとりの女性社員の「やってみたい」という強い意思がきっかけになっています。彼女の熱意が周囲を引っ張り、事業の形を整えることができたのです。
これからは、今まで以上に社員の「新しいことにチャレンジしたい」という気持ちを大切にする会社にしたいと思っています。私が社員にお願いしていることの一つに、「Global One Team」があります。国内600人、海外を含め1,000人の仲間が、一つの目標に向かって力を合わせることが大切です。実力や意欲があっても進む方向がバラバラでは、推進力が出ません。主役は社員であり、全員が協力して前進する。そのことを実感してもらうため、より風通しの良い環境にするのも私の務めです。
直属の上司に言いにくいことでも、役員が直結して対応する「目安箱」制度を導入したり、「社内報」を充実させたのはその一環です。副社長時代から始めた、少人数の社員とざっくばらんに話し合う「車座」も継続しています。組織のタテ・ヨコのつながりを深め、部門内でも部門間でも十分なコミュニケーションが行われている。そんな風通しのいい風土を創っていきたいと思います。
化学系関係者でなくていい。私たちにない考えを持ち込んでほしい
新たな動きを加速させるため、中途採用にも力を入れています。私自身も転職者で、Iターンして瀬戸内に魅了された一人です。都市圏では体験できないであろう出来事やチャンスが多く待ち構えている会社です。
私生活を家族や友人と楽しみ、ワクワクした仕事に従事できることは私が実証しています。化学の知識・経験にはこだわりません。むしろ、化学系でない人の方が面白いと思っています。
化学業界とは異なるフィルターで物事を考えられる、自動車会社・電気、産業機器メーカー、鉄鋼業界、繊維、IT、エンジニアリング関係など、異業界の経験者は大歓迎です。一番大切だと思うのは、「協和を仲間と一緒に大きく進化させてやるんだ」という転職者自身の意欲・熱意です。
社員に「何のために仕事をしているのか」と聞いて、「お客さまの喜ぶ顔が嬉しい」とか「社会貢献できていると感じられることにやりがいを感じる」などといった答えが返ってくる会社は、間違いなく素晴らしい会社です。
私は、今も初めて出会った時と同じように協和の将来性にワクワクしています。一緒に、ワクワクできる仕事をしましょう。それはあなた自身の夢の実現にもつながるはずです。